抄録
目的:職域健診における安静時心電図の実施状況と事後対応に影響する要因を解析し検査精度向上に資する。
方法:職域健診を実施し全国労働衛生団体連合会の精度管理事業に参加している379 施設に対して,安静時心電図に関する自己記入式の調査票を送付し,心電図異常所見頻度,病的意義の評価,事後対応について解析する。
結果:235 施設から回答があったが(回収率62%),心電図の実施件数が不明の17 施設を除外し計218 施設を解析対象とした。安静時心電図実施数は,2,770,239 件(男性1,716,697 件,女性1,053,542 件)であり,66.5%の施設が自動解析装置を使用していた。異常所見の頻度は,ST・T 異常(男2.2%,女2.4%),心房細動(男0.6%,女0.1%),異常Q 波(男0.5%,女0.2%)であった。健診時に既往歴96.8%,自覚症状90.8%,家族歴は53.7%の施設が調査していた。心電図判定の際に参照している施設は,既往歴57.3%,血圧50.5%,自覚症状48.2%,前回の心電図31.7%,生活習慣14.7%,コレステロール値等検査結果9.6%であった。全体での異常率14.7%,要精査率2.5%であったが,要精査率の施設間差は大きく自覚症状,家族歴,前回心電図,心血管系疾患危険因子などの参照有無が要精査率に影響し,心電図のみで判定している施設の要精査率が高かった。要精査後の最終診断を把握できていたのは218 施設中,57 施設であった。
結論:職域健診において要精査・治療と想定される安静時心電図異常が認められており検査自体は有用と考えられる。しかし,要精査率の施設間差は大きく,心電図以外の情報を参照しない施設の要精査率は高かった。さらに要精査と判定した例について最終診断の把握状況を改善する必要がある。心電図異常の病的意義の判定と事後対応に関する包括的な指針作成が望まれる。