抄録
わが国における自殺者は14年間3万人を超える異常な状況が続いている。自殺者の約3分の2が労働年齢層で、原因の約5割が健康問題と答えている。しかも健康問題の約9割がうつ病といわれており、このことからも、自殺対策の大きな焦点は、働く人のうつ病を主としたメンタルヘルス対策であることが明らかである。
そのような背景から、厚生労働省では、健康診断にメンタルヘルス支援対策としてストレスチェックの導入を決め、労働安全衛生法改正案を提出し、平成23年12月に閣議通過した。
この法改正では、働く人のストレスチェックを健康診断時などに実施をするものである。チェック項目は不安・抑うつ・疲労からなる9項目で、その結果、ストレス度を本人のみに返し、ストレスの気づきを促すというものである。ストレス度が高い者は、事業者に申し出をすると、医師による面接を受けることができ、医師が職場に問題があると判断すれば、事業者に対し改善するように指導するものである。
ストレスチェックは、医師または保健師がおこない、そのストレス度に応じて、受診勧奨したり、保健指導するものである。また、ストレスの原因が、職場にあると把握した場合、本人の了解を得たうえで、事業者に通知する仕組みである。
この法改正案は一見、単なる2次予防のように見えるが、ハイリスク者を受診勧奨するのと同時に、ストレスチェックから職場の改善に結び付けていくところにポイントがある。
しかし、本人の話から、職場の問題をアセスメントするには、ストレスチェックにあたった医師または保健師の力量に委ねられている。外部健診機関が健康診断を受け負う場合も、職場環境のアセスメントと労働者との継続的なかかわりが求められる。
また、企業内に医師または保健師がいる場合は、外部健診機関がおこなったストレスチェック結果をうまく活用し、アウトリーチしながら労働者のメンタルヘルスケアをすることが重要と考える。