ライオン株式会社では、50歳以上の従業員に対して脳ドック受診を推奨し、受診者に対して補助金制度を設けている。企業における脳ドック受診者の解析の報告はなく、今回、脳ドック受診者の所見・背景因子および危険因子との関連などの検討を行った。2015年から2017年の3年間で、ライオン株式会社の従業員のうち順天堂東京江東高齢者医療センターで脳ドックを受けた50名(男性29名、女性21名、年齢50~65歳)を対象とした。脳ドック受診者の脳MRI・MRA所見を調査し、有所見群と無所見群にわけ、この間で危険因子とされる高血圧・糖尿病・脂質異常症、肥満、心房細動、慢性腎臓病の有無を調べ、また生活歴として喫煙、飲酒習慣、睡眠時間、長時間残業との関連性の検討を行った。脳ドック受診者50名中、33名(66.0%)に何らかの所見が認められ、所見としては無症候性脳梗塞36.0%、慢性虚血性変化12.0%と多くみられた。危険因子では、高血圧症が有所見群において有意に多く、従来の報告と類似した結果であった。しかし、50~65歳の世代における脳ドック受診者の多くに何らかの所見があったことは、受診者自身の現在の状況を知るきっかけとなり、脳ドックは脳卒中や認知症の予知に有用であることから、企業健診における今後の脳疾患予防へ繋がると思われる。さらに産業保健職が結果を把握し、脳ドックの普及や最新の情報の提供などに努めることも必要と考える。