2023 年 50 巻 5 号 p. 452-459
健康診断で行なう遺伝子検査は体質を知り予防や早期発見することが目的である。ヒトの遺伝子はおよそ30億塩基対あるが、一般に標準塩基配列と差のバリアントと各疾患と関連を検索する。このため高コレステロール血症や糖尿病などの生活習慣病やがん遺伝子などの遺伝的要因がある多因子疾患等が対象となる。代表的な家族性コレステロール血症 (FH) では、ヘテロ接合体は本邦に200~500人に1人の頻度でいる。結果を知ることで食事や薬剤による予防が可能となり、被保険者のメリットとなる。生化学的に診断されているが、遺伝子検査の意味は家族内での情報共有や、重症度や薬剤の感受性が推察できることにあるLDLRやPCSK9 の変異が主な原因である。LDLRとPCSK9 両方の遺伝子変異をもつ患者では、LDL-C値が特に高く、狭心症や心筋梗塞といった冠動脈疾患の頻度が高くなる。2型糖尿病では200種以上の関連遺伝子がすでに知られている。ミトコンドリア遺伝子や全種類を検索することはなく、どのようなパネルを用いるかにより対象遺伝子は異なる。がん遺伝子もmanagementが必要な遺伝子が多数あり、結果陽性者にはきめ細かい対応が必要となる。TP53 遺伝子変異などは、幼若乳児から多臓器に発症することがあり、生涯発症率は女性で100%、男性73%と非常に高率である。放射線感受性が高くCTは行うべきでないなど注意が必要である。近年、DTC (direct-to consumer) による消費者が直接検査を受けつけている機関もあるが、日本人のリスクや予防効果などすべての項目で定まっていないものが多いはずであり、解釈には注意が必要である。健診に遺伝子検査を導入する場合は、疾患関連性や知ることのメリットなど知識を持って説明し、同意を取ったうえで行うこと、不安が強い被験者向けのカウンセリングやしかるべき機関への紹介体制が肝要となる。