総合健診
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50 巻, 5 号
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実践報告
  • 橋本 誠, 谷 直道, 赤津 順一
    原稿種別: 実践報告
    2023 年 50 巻 5 号 p. 439-446
    発行日: 2023/09/10
    公開日: 2023/12/10
    [早期公開] 公開日: 2023/06/27
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】生活習慣病は慢性疾患のため長期的な1次予防への取り組みが必要である。しかし、短期的には検査数値の変化が小さく自覚症状が乏しい場合も多く、1次予防に取り組むきっかけづくりが難しい。生活習慣病のリスク推定スコア (以下、JPMスコア) を健診・人間ドックの受診機会に、簡便かつ低コストでただちに受診者に報告することが可能になれば、特定保健指導や人間ドックの事後指導に活用できる。

    【方法】JPMスコア予測式作成における対象者は2011年と2021年の両方を受診した51,771人 (男:35,215人 42.4歳±7.12、女:16,556人 42.7歳±6.93)。ロジスティック回帰モデルによって予測式を作成した。JPMスコアは0~100%で10年後の生活習慣病リスクを表す。性能比較のために機械学習モデル (Support Vector Machine<以下、SVM>とRandom Forest<以下、RF>、Light Gradient Boosting Machine<以下、LGB>) を使用した。性能評価は3つのデータセット (2008-2018年、2009-2019年、2010-2020年) を用いて実施した (データ抽出基準は予測式を作成した2011-2021年と同一)。

    【結果】性能評価の3年間平均 (accuracy score、Area Under the Curve、マシューズ相関係数) はロジスティック回帰モデル:77.2%、0.823、0.407、SVM:77.2%、0.796、0.406、RF:78.3%、0.839、0.447、LGB:78.4%、0.842、0.451であった。

    【考察】機械学習モデル (LGB) の性能が最も高かったが、大きな差は観察できなかった。計算コストが低く、アドバイスコメント生成の根拠を示すことが容易なロジスティック回帰モデルを採用し、当会基幹システムへの実装を目指す。

大会講演
第51回大会
  • 五関 善成
    原稿種別: 大会講演
    2023 年 50 巻 5 号 p. 447-451
    発行日: 2023/09/10
    公開日: 2023/12/10
    ジャーナル オープンアクセス

     健診で心電図検査を行うことにより、不整脈、心筋の異常、心筋虚血の可能性など多様な情報が得られ、心疾患の早期発見と治療につながりその意義は高い。一方心電図は心臓の電気現象を反映したもので、その情報だけで病名を診断できる場合は限られる。冠動脈の危険因子の有無や胸部X線の所見が判断に重要な場合もある。また、臨床症状やその経過の情報が無く、心電図の経時的変化を見ないと診断が困難である場合もしばしば経験する。そのため、心電図の判定では、心電図波形の判読とともに医療面接や診察、心電図以外の検査の情報を加味した上での判定が望まれ、最終的には専門医による確認が不可欠である。

     このような状況下において総合健診受診者の信頼を維持していくためには、行われる心電図検査が信頼される水準にあることが施設には求められる。そのためには施設内部の精度管理はもとより外部精度管理に参加することで自施設の水準を確認することが重要である。しかし心電図判定をだれが どのタイミングでするのか、判定結果をどう健診結果に反映させるのかなど各施設によっての状況の違いもあり、その精度を評価する方法には課題もある。本稿では心電図精度管理をとりまく問題点や課題について述べてみたいと思う。

     また、心電図に対するコンピューターの深層学習の応用が近年進歩しており本稿でもいくつか紹介したい。たとえば、洞調律時の心電図から発作性心房細動に罹患しているかどうかを判別する研究がなされ感度82%、特異度83%と報告された。また、同様に心電図から左室駆出率の低下を予想するモデルも報告されている。このように従来正常心電図と判断され終わっていたものから疾病の予防に踏み込むことが可能となる研究はまさに予防医学の理想であり、今後健診の重要性をさらに高めることにつながっていくものと思われる。

  • 河島 尚志
    原稿種別: 大会講演
    2023 年 50 巻 5 号 p. 452-459
    発行日: 2023/09/10
    公開日: 2023/12/10
    ジャーナル オープンアクセス

     健康診断で行なう遺伝子検査は体質を知り予防や早期発見することが目的である。ヒトの遺伝子はおよそ30億塩基対あるが、一般に標準塩基配列と差のバリアントと各疾患と関連を検索する。このため高コレステロール血症や糖尿病などの生活習慣病やがん遺伝子などの遺伝的要因がある多因子疾患等が対象となる。代表的な家族性コレステロール血症 (FH) では、ヘテロ接合体は本邦に200~500人に1人の頻度でいる。結果を知ることで食事や薬剤による予防が可能となり、被保険者のメリットとなる。生化学的に診断されているが、遺伝子検査の意味は家族内での情報共有や、重症度や薬剤の感受性が推察できることにあるLDLRPCSK9 の変異が主な原因である。LDLRPCSK9 両方の遺伝子変異をもつ患者では、LDL-C値が特に高く、狭心症や心筋梗塞といった冠動脈疾患の頻度が高くなる。2型糖尿病では200種以上の関連遺伝子がすでに知られている。ミトコンドリア遺伝子や全種類を検索することはなく、どのようなパネルを用いるかにより対象遺伝子は異なる。がん遺伝子もmanagementが必要な遺伝子が多数あり、結果陽性者にはきめ細かい対応が必要となる。TP53 遺伝子変異などは、幼若乳児から多臓器に発症することがあり、生涯発症率は女性で100%、男性73%と非常に高率である。放射線感受性が高くCTは行うべきでないなど注意が必要である。近年、DTC (direct-to consumer) による消費者が直接検査を受けつけている機関もあるが、日本人のリスクや予防効果などすべての項目で定まっていないものが多いはずであり、解釈には注意が必要である。健診に遺伝子検査を導入する場合は、疾患関連性や知ることのメリットなど知識を持って説明し、同意を取ったうえで行うこと、不安が強い被験者向けのカウンセリングやしかるべき機関への紹介体制が肝要となる。

  • 天野 惠子
    原稿種別: 大会講演
    2023 年 50 巻 5 号 p. 460-466
    発行日: 2023/09/10
    公開日: 2023/12/10
    ジャーナル オープンアクセス

     性差医療の概念は、米国における女性医療の見直しから始まった。日本では、1999年に、日本心臓病学会で、筆者によりGender-specific Medicine (性差医学) の概念が紹介された。生活習慣病は、食事や運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が深く関与し、それらが発症の要因となる疾患である。健康・不健康に寄与する因子は、大きく①Sex (生物学的な差) と②Gender (心理社会的ないしは文化の差) に分けられる。食事、運動、休養、喫煙、飲酒などの因子はGenderの領域でよく議論されるが、生活習慣病により大きく寄与している因子はSex (性ホルモンのレベルの個人内、個人間、男女間での差) である。エストロゲンの欠落に始まる変化は、まず健診のデータに現れる。平成14年度~18年度にかけて、千葉県が成人検診対象者について行った事業では、35歳以上の男女合わせて延べ366,862人のデータが集まり、肥満度、血圧、脂質 (総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪)、肝機能 (ALT、γ-GTP)、クレアチニンで明らかな性別・年齢別変化 (ことに女性における更年期年齢における変化) が認められている。エストロゲン受容体にはαとβの2種類があり、1966年にエストロゲン受容体ERαが、1996年にエストロゲン受容体ERβが発見された。ERαは乳腺・子宮等の女性の生殖に関わる臓器に主として分布しているのに対し、ERβは男女を問わず全身に広く分布しており、より広範な生理的意義を有している。エストロゲンは、血中脂質代謝の改善、血管内皮細胞からのNO合成酵素の活性化、抗酸化作用などの抗動脈硬化作用を有し、インスリン作用や心臓の保護効果も報告されている。ERβはERαに比べ脳での発現量が多いことも知られている。認知をつかさどる海馬にも存在する。人生100年、男女のライフサイクルと性ホルモンの関係を熟知することにより、生活習慣病予防指導の効果が上がることは間違いないと考える。

  • 増田 美加
    原稿種別: 大会講演
    2023 年 50 巻 5 号 p. 467-473
    発行日: 2023/09/10
    公開日: 2023/12/10
    ジャーナル オープンアクセス

     コロナ禍で5大がん検診の受診率は、低下(2019年599万人→2020年435万人→2021年537万人)しており、2021年の受診者数は2019年を10.3%下回り、コロナ禍の影響が続いている。2021年と2019年の女性のがん検診受診者数を比べても、乳がん9.9%減、子宮頸がん8.0%減である。元来、女性のがん検診受診率は男性より低く、いまだに国が目標とする50%を下回ったままである。乳がん検診を受診しない理由の調査では「痛い、怖い、恥ずかしい」があがっている。このハードルをどう克服し、エビデンスあるがん検診の情報をどのように伝えていくかが女性のがん検診受診率向上のポイントとなる。2020年は、フェムテック元年と言われ、女性活躍推進法、健康経営、ダイバーシティなどと共に政府はフェムテック推進を「女性活躍・男女共同参画の重点方針2021年」に盛り込んでいる。この潮流が女性の健康課題の解決のヒントとなり、当事者視点の女性のがん検診にどう貢献するかを考察したい。

  • 吉形 玲美
    原稿種別: 大会講演
    2023 年 50 巻 5 号 p. 474-480
    発行日: 2023/09/10
    公開日: 2023/12/10
    ジャーナル オープンアクセス

     女性の健康管理において各ライフステージとエストロゲンの関与をとらえQOL向上・維持を目指したトータルヘルスケアを実践することが、これからの女性医療の役割であると考える。

     従来の一般的な女性検診は主に女性特有のがん (子宮頸がん、乳がん) 検診が中心であり、それ以外の女性のQOLやウェルエイジングに関する検査項目は網羅されていないのが現状である。健診の所要時間や費用、対面での健康指導などには物理的限界があり、さらに受診者側のヘルスリテラシーには大きなばらつきがある。超高齢化社会の中、次世代女性医療=トータルヘルスケアを実践するためには新たなソリューションの導入は必至である。

     そのような中、近年ムーブメントが起きているフェムテックの活用が女性検診の場面でも期待される。‘FemTech Industry Landscape Overview 2021’によると1) 、フェムテックへの参入企業、投資家は年々急増しており現在実用化されているフェムテックのカテゴリーは、一般医療、妊娠&看護、性と生殖の健康・避妊、月経の健康、メンタルヘルス、健康長寿、メノポーズケア、ウーマンズウェルネス、セクシャルヘルス、骨盤&子宮ヘルスケア、と女性のトータルヘルスケアを網羅している (図1)。

     女性検診におけるフェムテックの具体的な活用法を考える際、まずは女性のライフステージごとの気を付けたい疾患と生活の質に影響する健康問題に沿ってフェムテックの種類を把握すること。次に、対応カテゴリーを整理することが必要と考える。フェムテックが活用されることは女性の個々の健康問題に対しセルフアセスメント、セルフケア、ヘルスリテラシー向上、医療アクセス向上など様々な側面から大きな役割を担うことだろう。

     本稿ではトータルヘルスケアを目指すライフステージに沿った女性検診の提案と、それに付随した今後期待される様々なフェムテックを取り上げ、活用法、展望について私的見解をまとめた。

  • 小西 宏
    原稿種別: 大会講演
    2023 年 50 巻 5 号 p. 481-488
    発行日: 2023/09/10
    公開日: 2023/12/10
    ジャーナル オープンアクセス

     日本社会はいま、従来の考え方や価値観を大きく変える必要に迫られている。背景になっているのは、超高齢化と少子化、そして過疎化だ。経済や教育、医療など様々な面への影響がマスコミやネットで喧伝されている。市民の健康面への影響、とくに国民の死因の第一位であるがんの予防・早期発見に及ぼす影響も例外ではない。医学・医療の進歩により、がんの治療成績が著しく向上している。しかしながら、リスクを下げる生活習慣の改善と、早期発見が大切なことに変わりはない。いや、超高齢化、過疎化が加速する日本社会では、なおさら予防・早期発見が重要となる。早期発見の柱となるのは、がん検診だ。その方法には、簡便で、かつ安全なものが求められる。こうした状況を踏まえると、血液や尿などの体液を調べて、がんの早期発見につなげるリキッドバイオプシーやバイオマーカー測定への期待がいやが上にも高まる。その期待に応えるには、乗り越えなければならない課題も少なくない。第一に、こうした手法が市民の信頼に足りうるものであることが欠かせない。ただ、現行の制度の下において、ヘルスケア分野で任意に用いる各種の検査に国の承認が必要とされているわけではない。一般的な法規の規制は受けるとはいえ、国の承認等の特別な手続きがなくても販売できるのが現状だ。市民が安心して受けられるリキッドバイオプシーやバイオマーカー測定を確立するにはどのような制度、ルールが必要か。筆者が公益財団法人日本対がん協会時代に関わり、いまも参加を続けるいくつかの研究を紹介しながら、「がん検診」としてのリキッドバイオプシーやバイオマーカー測定の実現に向けた課題を考える。

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