2024 年 51 巻 5 号 p. 431-437
ヒトゲノムプロジェクト終了後、世界的には、ゲノムプロジェクトに向けられていた莫大な予算は、解析技術の高速化・効率化のための開発費に充てられた。その結果、次世代シークエンサー(NGS)が開発され、解析速度はわずか数年間で10万倍から100万倍と飛躍的な変化を遂げた。これまで、一つ一つの遺伝子を調べることでさえ、極めて容易とはいえなかったが、NGSでは網羅的な解析が容易に可能となった。網羅的解析では、その性質上、本来の目的とは異なる所見が得られることが多い。我が国では、国策としてがんゲノム医療を推進させる方針より、NGSによる解析結果をどのように被検者・患者さんと共有するかが重要な課題となり、2017-19年度において、AMED研究班「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」により「ゲノム医療における情報伝達プロセスに関する提言」をまとめた。がんゲノム医療のみではなく、生殖細胞系列の網羅的遺伝学的検査の際のものも含まれている。2020-22年の厚生労働科学研究では、AMED研究を引き継ぎ、「国民が安心してゲノム医療を受けるための社会実現に向けた倫理社会的課題抽出と社会環境整備」研究班を組織した。この研究班では、患者、一般市民、倫理社会科学系研究者、法律家も含めた班構成員による検討を実施し、AMED提言を、より双方向性を重視したものとして、タイトルも「情報伝達プロセス」→「コミュニケーションプロセス」に変更した。ガイドラインを整備するだけでは、不十分であるため、患者・一般市民と医療者等が完全にフラットな立場で双方向性のコミュニケーションを促進する新しい試みとしての「ゲノム交流会」をこれまでに7回開催した。また、社会基盤整備としては、遺伝子例外主義からの脱却と遺伝差別禁止などの法整備のための検討を実施した。