抄録
目的: 腹部超音波検査で肝左葉前後径 (Ld) 7.0cm以上を肝腫大として健診に導入しているが, 肝腫大でも脂質代謝や肝機能等に異常を認めないことも多い。そこで今回, Ldと動脈硬化危険因子, 脂肪肝などとの関係を調べ, 肝腫大診断の有用性について検討した。
対象・方法: 当健診システム受診者1, 000名 (男性662名, 女性338名) を対象とし, まず, 男女別にLdと身長, 体重, BMI, %FAT, 血清総コレステロール, HDL-コレステロール, 中性脂肪, GOT, GPT, γ-GTP, 空腹時血糖, 血小板および血圧との相関関係を調べた。次に脂肪肝群を軽度脂肪肝群と中等度~高度脂肪肝群に分け, 非脂肪肝群との3群でLdを比較した。さらに, 男性では肝左葉鈍化を認める群と認めない群とでもLdを比較した。
結果: 男性のコレステロールと血小板, 女性の身長以外はLdとの間に有意な相関関係が認められ, 特に, 体重, BMIおよび%FATで相関関係が強かった (γ=0.46~0.59, すべてp<0.001) 。正常群でもLdとBMIとの間に正の相関関係が認められた。Ldは脂肪肝の程度が増すにつれて増加し (男性: 非脂肪肝5.9±0.9 [SD] cmv.s.軽度6.5±0.9, 中程度~高度7.3±0.9, ともにp<0.01, 女性: 5.1±0.9v.s.5.8±1.0, 6.2±0.6ともにp<0.01) , 肝左葉鈍化を認める群で鈍化を認めない群よりも大きかった (6.7±1.2cmv.s.6.2±1.0, p<0.05) 。
考察: Ldは体重, BMIおよび%FATと強い相関関係を示し, この関係は正常者のBMIとの間にも認められたことにより, Ldは体格と関係することが示唆された。また, 脂肪肝の程度とも関係あることから, この基準での肝腫大の診断も有用だと思われる。