総合健診
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一IT企業従業員のメンタルヘルス状況調査
新井 俊彦
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2005 年 32 巻 5 号 p. 439-446

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抄録
一中堅IT企業で2004年9月に財団法人社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所の「働く人の心の定期健康診断システム (JMI健康調査) 」が行われ, 著者は嘱託産業医としてその結果の評価に携わった。
この調査はアンケート回答から心臓愁訴, 心気的身体症状, 疲労, 疾病頻度, 生活習慣, 抑うつ, 偏倚, 強迫, 不安, 爆発, 気分的不安定, 嗜癖性, 前うつ, 好調感, 自己顕示, 探究性, 自己不確実, 劣等感, 弱志, 外向性, 瞬発性, 仕事への適応感, 上司との関係, 同僚との関係, 帰属意識, 仕事への負担感のなさ, 仕事への意欲, 仕事の正確度, 評価への満足感, 将来への希望, 社会的無責任, 家族受容性, ライスケール, Fスケール, Iスケールの28尺度についてスコア化して評価している。尺度のスコア集計でRとあるのは逆順でスコアの点が付けられているもので, 一般には健全あるいは当然と考えられるもののスコアが高いようにしてある。スコアは個人の主観によるので, ばらつきが大きく, 統計的有意差検定に耐える成績は得られないが, 集団によって平均値には相違があり, その原因を検討することで, 職場の労働環境の問題を明らかにできると考えた。
年齢の上昇に平行してスコアの平均値は一定方向変化する。身体的には健全化し, 精神的には抑うつ傾向は高まるが, これ以外は安定化する。性格的には几帳面で, 自己顕示的で, 劣等感はなくなるが, 探究性, 瞬発性は低下する。職場では上司との関係は悪くなり, 評価への満足感は低下するが, これ以外の尺度は良い方向に向かっている。その他の尺度ではうそをつきやすくなるが, 職場でも家庭でも良い関係が築かれる。
職位別で見ると, 課長以上と一般は健全であるが, 課長代理のみは身体的に疲労しており, 精神的にも抑うつが強く, 不安, 不安定で, 劣等感があり, 探究性も低下し, 職場でも人間関係, 仕事, 将来の希望に問題を感じていた。
事業部別では, 内勤に比べて外勤に疲労が強く, 精神的には外勤で抑うつ傾向が低く, 性格的にも外勤の多い産業システム部ITサービス部で探求性, 前うつ, 自己顕示, 外向性, 自己確実性が顕著に高かった。これは職場領域の尺度にも現れており, 産業システム部ITサービス部は仕事への意欲が高いが, 上司との関係は良くないという結果として表現されている。一般にシステム開発関係は上司との関係が悪くはないが, これは内勤が多いことと関係があるのかもしれない。
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