本研究では、患者の個人情報取扱い事故発覚から公表に至るまでに要した日数および公表までに長時間を要した要因(以下、本研究では正当な理由がある場合も含めて「遅れ」と表記)を分析することにより、医療機関が適正な対応や公表を行うための基本的態度・姿勢を提案することを目的とした。
2008年〜2012年に新聞やWebサイト等で公表された患者の個人情報取扱い事故249件を分析対象とし、公表に至るまでの日数の統計学的な特徴を確認した。また、公表遅れにつながった要因を統計学的な分析および事例分析から探った。
その結果、半数が1週間以内、4分の3が2週間以内に事故を公表していたが、1割の事故は、公表までに25日以上要していたことが明らかになった。公表遅れの主な要因は、被害の拡大防止策の実施など「合理的な理由」に由来するもの、事故を起こした者の報告遅れといった「不合理な理由」に由来するもの、対応・対策の協議といった「どちらにもなりうる理由」に大別された。
合理的な理由に基づくものであれば、公表までに時間を要しても適正な対応といえる。しかし、不合理な理由に基づく対応遅れは避けなければならない。医療機関は、被害の拡大防止のための緊急対応と、慎重かつ正確な対応を組み合わせながら、できるだけ速やかに行動していく必要がある。いずれにせよ、患者を含む利害関係者がその妥当性を検証できるように事故の経緯を積極的に公表していくことが重要である。