抄録
Wallenberg症候群 (WS: 延髄外側症候群) における嚥下不能の病態と、ボツリヌス毒素治療の有用性について、自験2症例の観察と、文献例および動物実験に基づいて考察した. WSにおける嚥下不能は、嚥下運動における上部食道括約筋の協調性弛緩不全によるものであり、その中枢性機序は疑核運動ニューロンに対する抑制不全と考えられる。WSにおいて、嚥下運動時の食道入口部圧上昇、または上部食道括約筋の持続活動が認められる場合には、この筋活動を抑制するボツリヌス毒素治療の適応がある. 自験2症例では、毒素注入後速やかに嚥下は再開し、年余にわたって嚥下障害の再発はない. これはWSにおける高度嚥下障害が可逆的であることを裏付けている. 嚥下不能が遷延することは患者にとつて苦痛であり、かつ常に誤嚥の危険がある。これまでに行われてきた輪状咽頭筋切開術に比べて、ボツリヌス毒素注入は侵襲が少なく、WS発症後、高度の嚥下障害が2週間以上持続する症例に対して適応が考慮される.