情報通信政策研究
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論文(査読付)
デジタルツイン技術の医療・健康分野における応用可能性と倫理的・法的・社会的課題(ELSI)
木下 翔太郎
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2022 年 6 巻 1 号 p. 89-109

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抄録

現実世界で収集された情報を元に、デジタル空間内で現実世界の対となる双子(ツイン)を構築するデジタルツイン技術が注目を集めている。この技術は、現実世界で実施が困難な分析やシミュレーションを、デジタル空間上に構築したツインを対象に行い、その結果を現実世界にフィードバックすることで業務効率化などを可能とするもので、製造業などの分野で、既に活用が進んでいる。近年では、医療・健康分野における応用についても研究が行われ、我が国でも導入に向けた政策的な議論も起こりつつある。しかし、個人の健康に関する情報を多く含むデジタルツインは、プライバシーやセキュリティの観点などから慎重な対応が求められるため、医療・健康分野への応用を適切に進めていくためには、これらの倫理的・法的・社会的課題(ELSI)についても議論が行われていくべきであると考えるが、現状、これらの分野の研究動向自体が十分に把握されておらず、論点も整理されていない。そこで本研究では、デジタルツイン技術の医療・健康分野における応用可能性に関する文献をレビューすることで、研究動向の現状把握を行った。また、現時点で指摘されているELSIについても抽出を行い、今後の社会実装に向けた課題を整理することを目的とした。

文献検索にはPubMedを用いた。キーワード検索条件として、(digital twin*)AND (medic* OR health*) を用いて、文献を検索した。検索日は2022年7月1日であった。一次スクリーニングとして、表題と抄録から、広義・狭義のデジタルツイン技術の医療・健康分野における応用可能性について言及している文献を抽出した。また、英語の文献でないものを除外した。二次スクリーニングとして全文を読み、具体的な広義・狭義のデジタルツイン技術の応用や、それらのELSIに関連する記述があるものを抽出した。

スクリーニングの結果、113件の文献が得られた。内訳は、広義・狭義のデジタルツイン技術の医療・健康分野への応用に関する総論的な文献が11件、個別の領域についての応用に関する文献が88件、ELSIを主なテーマとする文献が14件あった。医療・健康分野への応用については、実用段階に至っているものは多くはなかった。

また、ELSIに関する議論も「社会への影響」、「個人への影響」につきいくつかの論点が挙げられていたものの、具体的な解決策についての議論は乏しく、トピックの提示に留まっていた。今後、実際の研究動向や社会実装レベルに合わせた、議論の深化が求められる。

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