情報通信政策研究
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寄稿論文
EU消費者法にみる個人データの対価としての位置づけ
カライスコス アントニオス
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2023 年 7 巻 1 号 p. 215-235

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抄録

今日のデジタル社会では、ユーザー(消費者)が、自己の個人データを提供するのと引き換えにデジタル・コンテンツやデジタル・サービスの供給を受けることが増え、一般化している。このようなビジネス・モデルの普及とは対照的に、その法的規律はまだ未完全のままである。コンテンツやサービスの供給者の約款等では、一般的に、このような契約は「無償」のものとして位置づけられている。しかし、その実態として、事業者は、ユーザーから提供された個人データを用いて収益を上げており、このことは、これらの契約の法的な性質を決定する際にも重要となる。法的な観点からは、このような契約をどのように取り扱うのか、例えば、ユーザー(特に、ユーザーが消費者であるとき)に、コンテンツやサービスの契約不適合性の場合にどのような救済手段を認めるのかなど、様々な側面において重要となる。

EUでは、この現象を捉えて、そのような場合においても、デジタル・コンテンツ等の契約不適合性について、代金(金銭等)を支払った場合と同じ救済手段が消費者に付与されるに至っている。同時に、個人データの保護は基本権であることも強調され、このような法的取扱いによって個人データがコモディティ化(商品化)されているわけではないことが明確にされている。他方で、個人データが契約上の対価として位置づけられることによって、契約法と個人データ保護法との交錯による新たな課題も生じている。具体的には、契約法に関する規律内容と個人データに関する規律内容が相互にどのような影響を与えるのか、などということである。

本稿では、まず、デジタル・コンテンツ供給指令の採択に至るまでのEU消費者法の展開を振り返る。その上で、分析のための前提として、デジタル・コンテンツ供給指令および関連指令等(一般データの保護に関する規則(GDPR)など)を概観する。そして、本稿の中核部分として、デジタル・コンテンツ供給指令における個人データの対価としての位置づけに関して、該当する契約の成立および効力について複数の視点から考察する。本稿における分析は、日本法における今後の関連する議論に資するものとして、そして、さらには、EU法および日本法で益々顕著に見られる契約法(そして消費者保護法)と個人データ保護法との交錯に関する分析の第一歩として位置づけて行うものとなる。

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