2023 年 7 巻 1 号 p. 237-258
プライバシー・個人情報保護の分野においては、従来、「同意原則」ないし「通知・選択アプローチ」と呼ばれる考え方が重視されてきた。しかし、最近では、IoT、ビッグデータ、AIといった情報技術の普及によって、実効的な本人同意を実現することが、困難になってきている。
このような情報環境の変化は、プライバシー権に関する法理論に対しても影響を与えるようになっている。従来、我が国の憲法学では、プライバシー権については、いわゆる自己情報コントロール権説が通説であるとされてきた。しかし、近年では、前述した情報環境の変化もあり、自己情報コントロール権説を批判し、これとは異なるプライバシー権論を提唱する見解が様々な形で主張されるようになっている。
このようにプライバシー権に関する学説は混迷を深めているが、その中でも、ある程度、共通する傾向というのは存在している。それは、プライバシー権に関する根拠を多元的に捉えるということである。仮に、プライバシー権の根拠を多元的に捉える立場に立つのであれば、プライバシー権の内容も多元化するのが素直ではないかと考えられる。本稿は、情報プライバシー権を多元化し、類型化をはかることを試みるものである。
本稿は、結論的に、プライバシー権を以下のように類型化すべきであると主張する。まず、プライバシー権は、大きく、情報のプライバシー、自己決定のプライバシー、領域のプライバシーに分かれる。そして、情報プライバシー権は、①自己情報コントロール権、②自己情報適正取扱権、③私生活非公開権の3つに分かれるということである。