抄録
本論文では,仕訳データの現代的意義を検討するという問題意識のもと,仕訳データの特性である複式記入の相互参照性(相手勘定を特定できる性質)が,コンピュータ支援監査技法として注目されている教師なし機械学習による異常取引の自動検出において,どのような意義を有しているかを分析した。分析の結果,複式記入の相互参照性は,取引全体の貸借関係の構造的把握を可能にし,その構造的異常の検出に寄与するという意義や,有向グラフ化した取引において,エッジ表現による一対一の貸借関係の把握を可能にし,その圧縮可能性に基づく異常検出に寄与するという意義を有することが明らかとなった。これらのことから,現代においても,仕訳データの意義は失われていないと結論付けた。ただし,仕訳データを用いた異常検出を実践するには,企業が用いる勘定科目の多さに起因する「次元の呪い」問題や有向グラフの曖昧さの問題を解消しなければならないという課題が残されている。