2021 年 25 巻 1 号 p. 77-85
本研究は,認知症高齢者に対し,短時間の個人回想法の効果を検証し,訪問看護への活用について検討することを目的とした.アルツハイマー型認知症高齢者7名を対象に,個人回想法を週1回,約10分間,計8回(2カ月間)実施した.評価には,認知症に特異的なQOL指標であるDQOL,BPSDを測定するBEHAVE-AD,観察記録表を用いた.DQOLおよびBEHAVE-ADは,Wilcoxonの符号付き順位検定で分析した.結果,DQOLは,自尊感情が介入前より介入1か月後の方が有意に改善した.BEHAVE-ADは,いずれの項目においても有意差はなかった.観察記録表は,表情,喜び・楽しみ,全体的な雰囲気,発言回数,自発性・応答性の項目において得点が上昇した.過去の感情が想起され,肯定的な感情の表出が活性化されていた.認知症になっても自分らしさを取り戻す瞬間が増え,より安定した状態を作り出すケアになるのではないかと考える.以上のことから,認知症高齢者の肯定的な感情が引き出され,訪問看護ケアに回想法を活用できる可能性が示唆された.