2006 年 20 巻 2 号 p. 2_40-2_49
目 的
妊娠期の健康度や生活習慣を評価する客観的評価指標は少ない。そこで,妊娠期において酸化ストレスマーカーの一つである尿中バイオピリンを測定し,妊娠期での値の特徴とその関連要因を明らかにし,その利用可能性を検討する。
方 法
2004年7月2日から8月31日までの調査期間中にNクリニックに来院した妊婦のうち594名を対象妊婦群とし,妊娠初期・中期・末期に分類した。また,妊婦群の年齢にマッチングさせた,現病歴のない,非妊娠女性35名をコントロール群とした。妊婦群とコントロール群に対し,調査票および診療記録から基本情報,生活習慣,精神的ストレスとして精神的健康度(general health questionnaire: GHQ)の情報を得た。また午前中に採尿・採血を行い,尿中バイオピリン,血清中脂質代謝マーカー(アセト酢酸・3-ヒドロキシ酪酸・トリグリセリド・総コレステロール・LDLコレステロール・HDLコレステロール・遊離脂肪酸)と糖代謝マーカー(グルコース・グリコアルブミン)の測定を行った。
結 果
妊娠初期・中期・末期における妊婦の尿中バイオピリン値は非妊娠女性に比して有意に高値(p<0.001)であった。妊娠末期の尿中バイオピリン値は,妊娠初期,中期の値に比して有意に高値(p<0.001)であった。
尿中バイオピリン値に関連する要因として,現病歴があること,高血圧や蛋白尿といった妊娠高血圧症症状があること,グルコースおよび精神的健康度GHQ得点と正の関連,HDLコレステロールと遊離脂肪酸と負の関連が明らかになった。尚,妊娠高血圧症症状は,3-ヒドロキシ酪酸などの脂質代謝と関連があった。
結 論
妊婦の尿中バイオピリン値は,妊娠末期に最も高値を示し,非妊娠女性よりも高値を示すという特徴が明らかになった。また,脂質代謝と関連のある妊娠高血圧症症状や現病歴,糖代謝,精神的健康度との関連が見出され,尿中バイオピリン値の妊娠中の酸化ストレスマーカーとしての利用可能性が示唆された。