日本助産学会誌
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20 巻, 2 号
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原著
  • ─体験者の記述内容分析から─
    竹ノ上 ケイ子, 佐藤 珠美, 辻 恵子
    2006 年 20 巻 2 号 p. 2_8-2_21
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/06/30
    ジャーナル フリー
    目 的
     自然流産後夫婦の関係変化とその要因を明らかにし,夫婦を対象としたケアの方向性,援助方法を考案する基礎資料とする。
    方 法
     自然流産後3か月から2年経過し,掲示やホームページによる公募に応じた夫婦を対象とし,後方視による関係変化についての記述内容をデータとして,質的,帰納的に内容分析を行った。
    結 果
     166名(男性14名,女性152名)が,流産後の夫婦関係の変化内容を記述し,その内容177件をデータとした。夫婦関係の変化内容として【個の成長・成熟と夫婦関係のよい循環過程】,【親密な良い関係のさらなる向上】,【関係の深化と発展】という3つのポジティブな変化と【希薄な悪い関係のさらなる悪化】,【関係の断絶と破綻】という2つのネガティブな変化が得られた。
     ネガティブ変化にかかわる要因として【事実誤認と相互理解の困難】,【配偶者を負の方向で評価】,【悲哀のプロセスの共有困難】,【普段の夫婦関係が希薄】,【子どもを持つことについての感情や思考のすれ違い】,【性生活の困難】,【夫婦としての存在意味喪失】の7つが得られた。
     ポジティブ変化にかかわる要因として【適切な事実認識】,【配偶者の肯定的評価】,【自己開示と自己確認】,【悲哀のプロセス共有】,【関係向上への努力】,【親としての自覚と努力】の6つが得られた。
    結 論
     流産は衝撃的な対象(胎児)喪失体験であり,危機的状況を引き起こす重大なストレス因子であること,夫婦関係創成期,家族創成期に困難を連続して体験すること,親になる意思確認や夫婦,あるいは家族であることの確認の機会であること,正しい事実認識や悲哀のプロセス共有が危機的状況を乗り越える鍵となり,個と夫婦の発達を促す契機にもなり得るが,反対に感情や思考のすれ違いが生じやすく,関係の断絶と破綻も生じやすいことが示唆された。
  • ─WTPを用いて─
    丸山 彩香
    2006 年 20 巻 2 号 p. 2_22-2_30
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/06/30
    ジャーナル フリー
    目 的
     消費者の立場から経済的評価方法を活用して出産前教育の価値を明らかにするとともに,価値付け内容とその価値に関連する要因を探索することである。
    対象と方法
     出産施設に通院中の妊婦383名を対象に,仮想評価法(Contingent Value Method:以下CVM)を利用し,出産前教育に対する支払意思額(Willingness to Pay:以下WTP)による出産前教育の価値,価値付け内容,価値に関連する要因について自記式質問紙を用いて調査した。
    結 果
    1.出産前教育の価値として回答された出産前教育へのWTPは,無回答34名(8.9%),0円とした回答32名(8.3%),1円以上の有料回答315名(82.8%)であり,有料回答内のWTPは平均900.8±675.5円であった。
    2.出産前教育の価値付け内容は,[他者との交流],[専門性への期待],[出産・育児の具体化],[不安・ストレスの軽減],[個別性の重視],[家族関係の変化への適応],[場の雰囲気作り],[物質的な充足]および[状況・環境の設定]の9要素であった。
    3.WTPには,妊娠週数および出産前教育の参加経験の有無が関連し,妊娠・出産・育児への不安,出産前教育への参加動機との関連性が示唆された。
    結 論
     出産前教育の価値は,WTPとして平均900.8±675.5円として示され,妊娠週数がすすみ,出産前教育に参加経験がある人ほど低い傾向にあった。また,その価値付け内容として9要素が抽出された。
  • 眞鍋 えみ子, 松田 かおり
    2006 年 20 巻 2 号 p. 2_31-2_39
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/06/30
    ジャーナル フリー
    目 的
     初妊婦のセルフケア行動の向上をはかるためにセルフモニタリングを用いた健康学習指導を行い評価する。
    研究方法
     介入は,日々のセルフケア行動に対するセルフモニタリングを行い,助産師による面接を受ける面接群(17名)とセルフモニタリングのみを行う記録群(20名)の2群を設定し,妊娠15週から34週までの20週間介入を行った。対照群として介入を行わない妊婦(18名)を設定した。評価指標は,不安,セルフケア行動意図とセルフケア行動実践状況とし,妊娠15週,26週,36週に測定した。
    結果・考察
     記録群では25%の者がプログラムから脱落した。繰り返しのある2要因の分散分析を行ったところ,不安において群の主効果(p<.01),セルフケア行動意図では食生活と日常生活動作において群と時間の有意な交互作用(p<.05),セルフケア行動の実践では異常の予防・早期発見において群の主効果(p<.05)がみられた。セルフモニタリングは不安の軽減をはかりセルフケア行動の意図を高める効果をもたらし,さらに助産師による面接の併用によりセルフケア行動の実践を高めることが示唆された。
  • 松崎 政代, 春名 めぐみ, 大田 えりか, 渡辺 悦子, 村山 陵子, 塚本 浩子
    2006 年 20 巻 2 号 p. 2_40-2_49
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/06/30
    ジャーナル フリー
    目 的
     妊娠期の健康度や生活習慣を評価する客観的評価指標は少ない。そこで,妊娠期において酸化ストレスマーカーの一つである尿中バイオピリンを測定し,妊娠期での値の特徴とその関連要因を明らかにし,その利用可能性を検討する。
    方 法
     2004年7月2日から8月31日までの調査期間中にNクリニックに来院した妊婦のうち594名を対象妊婦群とし,妊娠初期・中期・末期に分類した。また,妊婦群の年齢にマッチングさせた,現病歴のない,非妊娠女性35名をコントロール群とした。妊婦群とコントロール群に対し,調査票および診療記録から基本情報,生活習慣,精神的ストレスとして精神的健康度(general health questionnaire: GHQ)の情報を得た。また午前中に採尿・採血を行い,尿中バイオピリン,血清中脂質代謝マーカー(アセト酢酸・3-ヒドロキシ酪酸・トリグリセリド・総コレステロール・LDLコレステロール・HDLコレステロール・遊離脂肪酸)と糖代謝マーカー(グルコース・グリコアルブミン)の測定を行った。
    結 果
     妊娠初期・中期・末期における妊婦の尿中バイオピリン値は非妊娠女性に比して有意に高値(p<0.001)であった。妊娠末期の尿中バイオピリン値は,妊娠初期,中期の値に比して有意に高値(p<0.001)であった。
     尿中バイオピリン値に関連する要因として,現病歴があること,高血圧や蛋白尿といった妊娠高血圧症症状があること,グルコースおよび精神的健康度GHQ得点と正の関連,HDLコレステロールと遊離脂肪酸と負の関連が明らかになった。尚,妊娠高血圧症症状は,3-ヒドロキシ酪酸などの脂質代謝と関連があった。
    結 論
     妊婦の尿中バイオピリン値は,妊娠末期に最も高値を示し,非妊娠女性よりも高値を示すという特徴が明らかになった。また,脂質代謝と関連のある妊娠高血圧症症状や現病歴,糖代謝,精神的健康度との関連が見出され,尿中バイオピリン値の妊娠中の酸化ストレスマーカーとしての利用可能性が示唆された。
資料
  • -1990年から2005年の国内文献の調査から-
    小川 久貴子, 安達 久美子, 恵美須 文枝
    2006 年 20 巻 2 号 p. 2_50-2_63
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/06/30
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究では,1990年から2005年の10代妊婦に関する国内文献の内容を分析し,今後の課題を明らかにすることである。
    対象と方法
     「医中誌WEB:」及び,「最新看護検索」を用い,キーワードを,『未成年者妊娠,若年初産婦,10代妊娠,思春期妊娠』として検索し,得られた106件の文献内容を分析し,それを分類して検討した。
    結 果
     文献内容を分析した結果,10代妊婦の背景や妊娠から育児に関する実態と今後の課題の合計5項目が明らかになった。その中で,既存文献では,10代妊婦の実態やケア実践への提言は比較的多くなされているが,ケアの効果を実証する研究や10代の年齢による特性の違いを論じる研究は少ないことが明らかになった。さらに,10代女性にとっての妊娠の受容過程や,10代で妊娠することや子育てを経験することが,その社会のなかでその人にどのような意味をもち,健康面にどのように影響するかという心理・社会的状況についても十分には明らかになっていないことが判明した。
    結 論
     今後の10代妊婦の研究では,実践のエビデンスを提供する質の高い研究を目指して,対象者の特性をより明らかにする主観的体験を探求する研究などが重要である。
  • ─入院から出産までの追跡─
    新川 治子
    2006 年 20 巻 2 号 p. 2_64-2_73
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/06/30
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究の目的は,はじめて父親になる切迫早産妊婦の夫が抱く,父親になることや妊娠や出産に対する思いを明らかにすることである。また,これらの変化を入院直後から出産に至るまでの間追跡し明らかにすることである。
    対象と方法
     切迫早産のために入院し出産に至った初産婦の夫3名を対象にした。データ収集には,半構成的面接法を用い,入院時とそれ以降は週に1回,夫に対してのみ行い,内容分析を行った。
    結 果
    1.対象者たちの気持ちの中では,「父親になるという自覚」と「妊娠や出産に対して感じている無力感や疎外感」が共存していることが明らかとなった。
    2.対象者にとって父親になるという自覚は出産に至るまで揺らいでいた。この揺らぎは個々で異なっていた。
    3.対象者たちは妊娠や出産に対し無力感と疎外感を持続的に抱いていた。
    結 論
     本研究によって切迫早産で入院した妊婦の夫たちの気持ちの変化が明らかになった。妊婦の入院は夫たちを父親として発達させる面もあるが、揺すぶる出来事でもあった。そのため看護者は夫たちの気持ちに耳を傾け,対象理解に努めることが必要であることが示された。また,コミュニケーションを工夫して,父親になるという自覚の発達を支援し,妊娠や出産に参加していけるようなかかわりを検討していくことの必要性が示唆された。
  • 佐藤 喜根子
    2006 年 20 巻 2 号 p. 2_74-2_84
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/06/30
    ジャーナル フリー
    目 的
     産褥期にある女性の精神障害は,その後の育児にも関係する。本研究は支援策を考えるうえで必要な妊産褥期別不安の程度と妊娠末期に産後うつ病の予測の有無,並びに各時期の不安に関係する要因を探ることを目的とした。
    対象及び方法
     対象はA市内にある3つの総合病院で出産した189名である。調査期間は2000年8月から翌年8月までと2004年6月から2005年1月までである。調査方法は妊娠末期と産褥期の5日・1ヶ月・3ヶ月目にSTAIを,産褥5日目にSteinのmaternity blues scoreを,そして産褥期5日・1ヶ月・3ヶ月目にEPDSを調査した。他に社会・経済的・産科学等の不安に影響を及ぼす要因をアンケートで調べた。分析には重回帰分析を用いた。
    結 果
     STAIの状態不安と特性不安は,前者が後者より,妊娠末期が産褥期より高かった。maternity bluesは産褥5日目で23%あり,EPDS得点が9点以上を示す産後うつ病の危険因子を有する者は産褥3ヶ月目に14.2%あった。また,不安要因として妊娠末期は,STAIから「出産の経験」と「姉妹の手伝い(の有無)」が抽出できた。そして産褥期は3つの尺度(STAI, Stein, EPDS)で測定したものから複数の尺度で抽出されたものは,産褥5日目は「夫の協力(の有無)」「経済困難」「妊娠契機」であり,産褥1ヶ月目は「妊娠契機」であり,産褥3ヶ月目は「夫の協力(の有無)」「妊娠の契機」であった。
     産後うつ病予防に対する予測のチェック体制には,他の尺度と正の相関を示すことから,妊娠期にも使用できるSTAIが望ましいと考えられた。
     しかし,重回帰分析からは妊娠末期のSTAIでは,特性不安のみが産褥期の特性不安と産褥3ヶ月目のEPDSに関連することがわかった。
    結 論
     今回の調査で,産後うつ病の予測に対しハイリスク者の抽出に,妊娠末期のSTAI(特性不安)で予測が可能であることがわかった。また,産褥の時期別に抽出された関連要因は,産褥期全体で夫の協力や妊娠の計画性等の生活環境の因子であることがわかった。妊娠末期,産褥期の時期に応じた支援の工夫が必要である。
  • 中村 紋子, 片岡 弥恵子, 堀内 成子, 土屋 麻由美, 田中 しのぶ, 矢島 千詠
    2006 年 20 巻 2 号 p. 2_85-2_93
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/06/30
    ジャーナル フリー
     聖路加看護大学看護実践開発研究センターで始められた兄姉になる子どもが妊娠・出産,性について学ぶクラス「赤ちゃんがやってくる」の概要と実施状況を記述し,クラスの前後で実施されているアンケート結果を基に評価し,今後の課題を明らかにすることを目的とした。
     2004年7月から2005年12月までに11回の実施により,合計89家族の参加があった。1回平均8.1家族,25.9名の参加があった。参加した子どもの平均年齢は3.8歳であり,3歳児の参加が最も多かった。
     クラス前アンケートから,参加した理由は「新しく兄姉となる子どもが赤ちゃんを迎える準備」「妊娠・出産の理解」「立会い出産の準備」があげられた。親自身の「子どもに性(妊娠・出産を含む)について説明する際の準備」「上の子との関わり方を知りたい」という理由もあった。クラス後アンケートにて,クラスでよかったことは,「赤ちゃん人形の抱っこ」「人形による出産の劇」「紙芝居による妊娠・出産の話」と回答された。親とのディスカッションの時間もよかったこととしてあげられていた。出産後のアンケートによると,クラスの後,子どもたちは,「赤ちゃんのことをよく話すようになった」「お母さんのお腹に対してやさしくなった」「お母さんの手伝いをよくするようになった」などの変化があった。半数が,「自然な形で出産について理解できた」「子どもの立会いがスムーズだった」とクラスを肯定的に捉えていた。
     これまで実施してきた「赤ちゃんがやってくる」は,おおむね肯定的評価を得たが,今後の課題としては,有効な広報活動,マンパワーの確保,クラスの評価方法の再検討の必要性が示唆された。
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