日本助産学会誌
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原著
母体搬送を経て出産に至った女性の経験における認知過程
西方 真弓
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2009 年 23 巻 1 号 p. 26-36

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抄録

目 的
 本研究は,母体搬送を経て出産に至った経験を当事者である女性がどのように認知していったのか,その過程を明らかにすることを目的とした。
対象と方法
 2施設の周産期医療施設において母体搬送を経験し,出産後約1ヶ月が経過した女性5名を研究参加者とした。参加者に半構成的面接を実施し,データ収集を行った。得られたデータを質的に記述し,分析を行った。
結 果
 5名の語りから,母体搬送を経て出産に至った女性の経験における認知過程を分析した結果,6つのカテゴリーと,それぞれに位置づく15のサブカテゴリーが抽出された。
 搬送を経て出産に至った女性は,想定外の状況や緊迫した医療者の対応から自分と子どもの身の不確かさを感じ取りながらも“医療者に身を委ねる”しかなかった。その主体的な判断ができない状況から抜け出そうと“医療者の説明や過去の経験から現状を察知”していた。しかし,現状を把握したことによって,自分が望んでいた状態には戻ることができない“逃れられない状況を受け入れる”しかなかった。女性は,一日でも長い妊娠の継続,出生直後から適切な医療を受けさせることが自分に与えられた使命と悟り“子どもの安全を一番に思い決定”した。出産後は,自分が描いていた妊娠・出産と異なる代替的な方法を選んだ結果を価値あることと意味づけ,理想と現実の不一致を修正しつつ“揺らぎながら出産体験を統合”していた。女性は,自分を取り巻く,家族や同室者,医療者などの“周囲に存在する人を拠りどころ”としながら現状の察知や受け入れ,決定,出産体験の統合を行っていた。
結 論
 母体搬送を経て出産に至った女性が,今回の出産にまつわる一連の出来事を自分の経験として再構築していくために,当事者が状況を理解できるような周囲の支援が必要である。また,やむを得ず代替的な方法を選択するしかなかった状況を女性自らが,意味づけられるような関わりの必要性が示唆された。

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© 2009 日本助産学会
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