日本助産学会誌
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原著
不妊治療を終結した女性の体験治療の終結に焦点をあてて
渡邊 知佳子
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2010 年 24 巻 2 号 p. 307-321

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抄録
目 的
 本研究の目的は,自ら不妊治療を終結した女性の体験を記述することで,治療の終結に至るまでの当事者の思いや考え,また終結の決断に何がどのように影響していたのか,具体的な事象を明らかにすることである。
対象と方法
 本研究は不妊治療を終結した女性の「語り(ナラティヴ)」を聞き取り,彼らの視点で解釈する方法としてライフストーリー研究を用いた。研究参加者は過去に生殖補助医療を受け,現在は不妊治療を終結している女性4名である。データ収集は,不妊治療を考え始めた時から終結において,どのような出来事があり,その時どのような思いや考えがあったのかを自由に語ってもらった。分析は,事象及びその時の思いや考えの繋がりを考慮しながら一つのまとまりのあるエピソードを抽出し,ストーリーを導き出した。
結 果
 Aさんは治療10年目にして初めて妊娠反応が陽性となるが,それが掻爬の必要も無い流産だったため自信を失い,自分には出産は無理かもしれない,でも子どもを諦められないと葛藤する。そして,誰ももっと頑張れとは言わない治療の最終段階へ到達したと感じて,最後の治療と宣言して臨む。Bさんは月経不順や子宮の痛みから年齢的な限界を意識するが,夫や実母のための不妊治療ゆえに自らやめるとは口に出来なかった。夫の引導によってようやく終結が決断でき,肩の荷をおろす。CさんもBさんと同様に夫からの促しによって治療を終結したが,Cさんは終結後の喪失感が大きく,治療への未練を感じながら里親になることへと方向転換をしていった。Dさんは習慣性流産の原因が判明しなかったことや,掻爬を繰り返したことでこれ以上は身体がもたないと認識し,治療の終結を決断していた。
結 論
 研究参加者は,生殖機能の衰えの自覚や,先端医療技術でも解決できない問題であると悟ること,そして,子どもができない自分をありのまま認めてくれるという他者からの承認によって,自己を受容することが可能になり,治療終結の一歩を踏み出していた。
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© 2010 日本助産学会
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