日本助産学会誌
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原著
死産・新生児死亡で子どもを亡くした父親の語り
今村 美代子
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2012 年 26 巻 1 号 p. 49-60

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抄録

目 的
 死産または新生児死亡により子どもを亡くした父親が,妻の妊娠中から現在までにどのような体験をしてきたのかという語りを記述し,それを通して父親をより深く理解し,求められるケアの示唆を得ることである。
対象と方法
 死産または新生児死亡で子どもを亡くした6名の父親を対象に半構成的面接を行い,現象学的研究方法を参考に質的記述的に分析した。
結 果
 父親の体験は,以下の7つに分類された。1. 予期せぬ死に衝撃を受ける:子どもを突然に失ったという,驚きや混乱からもたらされた精神的衝撃,そして,その後に引き続く無力感,空虚感であった。2. 自分の悲しみをこらえ妻の心身を案じる:自分の悲しみよりも先に,心も身体も傷つけられたであろう妻の立場を気遣っていた。3. 辛さを隠し父親·夫としての役割を果たす:自分の辛さを押し隠し,子どもを送り出す為の諸々の手続きを引き受け,父親と夫の両方の役割を果たしていた。4. 社会に傷つけられながら生活を続ける:男性の備え持つ特性により,悲しみは内に抱え込まれたまま表出されず,更に子どもの死を嘆き悲しむことを認めない社会に傷つけられていた。5. 子どもの死因を知りたいと望む:子どもの死に対して何らかの意味付けを行い,死を受容してゆくきっかけとしていた。6. 父親として在り続ける:子どもが誕生する以前からその存在を愛しみ,子どもを亡くした後も父親として在ることに変わりなかった。7. 人間的な成長を遂げる:父親達は悲しみを抱えながらも「自分自身の力で乗り越えた」,死生観が変容した,人生観が変容した,自分の体験を他者に生かして「共有」したいと願った。
結 論
 死産·新生児死亡によって子どもを亡くした父親は,予期せぬ我が子の死に大きな衝撃を受け,悲しみを押し隠しながらも父親と夫の役割を果たしていた。表面化されない悲しみは社会からも見過ごされ,時に父親自身も気付き得ないほどであったが,亡き子どもの存在を忘れることはなく,父親として在り続けることで人間的な成長を遂げていた。

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© 2012 日本助産学会
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