目 的
裁判における助産師の主張に着目し,助産師が行ったケア及び説明責任を検討することは,医療過誤防止につながる重要な課題を導くと考える。本研究は,患者家族と対立した助産師の主張が認められず,過失が認定された医療過誤裁判における裁判所の事実認定を通し,医療過誤防止への課題を見出すことを目的とする。
対象と方法
法律データベースを用い,1999~2020年の医療過誤裁判を検索し,主要な争点のうち助産師の主張の多くが否認された裁判例の収集及び分析を行う。分析は,時系列に沿って作成した診療経過表をもとに争点,当事者の主張,問題の背景を整理する方法である。
結 果
2020年4月~12月の期間で「医療事故」and/or「出産」でキーワード検索し,2件を研究対象とした。何故,助産師の主張が認められなかったのか,裁判所の事実認定を検討したところ,書証では「記録及び保存方法の不備」,「提出された資料による助産師の手技の推定」,人証では「一貫性及び整合性の評価」,「他の医療者の不一致証言による心証形成」,その他として「裁判における初期対応の影響」が課題として挙げられた。
結 論
書証の検討では,記録及び保存方法の不備が証拠としての価値に疑義をもたらすこと,提出された資料により助産師の手技に問題があると推定されること,人証の検討では,一貫性及び整合性の評価や医療者の不一致証言が心証形成に影響を及ぼすことがわかった。助産師として従事している間の行動は,提出された証拠や助産師の証言等をもとに検証されるため,この過程において自らの行動に対する責任を持つことが重要と考える。