日本助産学会誌
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36 巻, 1 号
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巻頭言
総説
  • 木戸 久美子, 植村 裕子, 松村 惠子
    2022 年36 巻1 号 p. 3-14
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    [早期公開] 公開日: 2022/01/26
    ジャーナル フリー

    目 的

    本研究の目的は,父親の産後うつに関連する質的研究のメタ分析を通して,2つの研究課題1)父親の産後うつは,専門家によってどのようにスクリーニングされてきたか,2)父親の産後うつに対する対処や支援とは,また対処や支援の受け入れを困難にしている障壁は何かについて明らかにすることである。

    方 法

    父親の産後うつに関連する論文をCINAHL, MEDLINE, Google Scholarを用いて検索した。検索キーワードは,「サポート」AND「父親の産後うつ」OR「父親のうつ」OR「父親のメンタルヘルス」AND「質的研究」であった。データベースとハンドサーチで検索された質的研究論文は32編で,そのうち5編の論文を分析対象とした。本研究では,メタエスノグラフィーを利用した。

    結 果

    Patient Health Questionnaire -9,Generalized Anxiety Disorder-7,The Patient Health Questionnaire -15等が,スクリーニングに用いられていた。分析した論文から8つのメタファー:「父親の産後うつのきっかけ」,「父親の産後うつへの認識」,「父親の産後うつの影響」,「対処法」,「情報資源の不足・不備」,「支援を求める障壁」,「支援を必要とする理由」,「父親の産後うつへの支援」が抽出された。父親の産後うつ病は,一連のきっかけとなる出来事に基づいて発症し,自覚症状も様々である。父親は,自分が産後うつ病であることに気づくと,それに対処しようとするが,支援情報は十分ではなかった。さらに,男性であることが,助けを求めることへの恥ずかしさにつながり,父親の産後うつへの対処の障害となっている。一方で,家族を守るという責任感が,うつと向き合い,社会的支援や専門家の助けを求める動機となっていた。

    結 論

    父親の産後うつのスクリーニングには,一般化されている不安尺度と抑うつ尺度が用いられていた。産後うつを自覚している父親への支援が不十分であることや男性性が障壁となり,父親の産後うつへの対処の妨げになっている。一方で,父親として自覚は,産後うつを克服しようとする行動の動機付けとなっていた。

  • 松田 香, 白石 三恵
    2022 年36 巻1 号 p. 15-28
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    [早期公開] 公開日: 2022/02/10
    ジャーナル フリー

    目 的

    月経前症候群は黄体期に精神的,身体的な様々な症状が現れる疾患であり,日本人女性の70-90%が何らかの症状を自覚している。本レビューは,月経前症候群の症状を有する女性に対するアロマセラピーの効果を検討することを目的とした。

    対象と方法

    2021年3月までに公表された和文・英文文献を対象に,「アロマセラピー」「月経前症候群」などの各データベースに応じた検索語を用い,電子データベース検索(医中誌Web,CiNii,MEDLINE,CINAHL,Cochrane Library,PsycINFO)およびハンドサーチを行った。包括論文の研究デザインはランダム化比較試験(RCT)とし,包含・除外基準に基づき採択論文を決定した。定量的統合には逆分散法を用いた。

    結 果

    RCT5件をレビューの対象とした。使用された精油はラベンダー,クラリセージ,ダマスクローズ,ダイダイ,ゼラニウムであった。精神症状への効果を検討した4件全てで,介入群では対照群に比べていらつき・不安・抑うつなどの精神症状得点の有意な改善が見られていた。身体症状への効果について調査した3件全てで,介入群では対照群に比べて浮腫・疲労・過眠などの身体症状得点の有意な改善が見られた。自律神経活動への影響を調査した2件において,介入群では対照群に比べて副交感神経の活動を反映するHigh Frequency powerが有意に上昇していた。定量的統合の結果においても,アロマセラピーにより月経前症候群の精神症状・身体症状が軽減,副交感神経活動が亢進されることが示唆された。ただし,これらの分析では統計学的異質性がみられた。

    結 論

    アロマセラピーは月経前症候群の精神・身体症状,及び自律神経活動に対して有益である可能性が示唆された。今後は,症状軽減に最も効果的な精油の種類および実施方法の検討が必要である。

原著
  • 渡邊 美紀, 名取 初美, 平田 良江, 渡邊 由香
    2022 年36 巻1 号 p. 29-40
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    [早期公開] 公開日: 2022/02/10
    ジャーナル フリー

    目 的

    高年初産婦の産後1か月における育児困難感に影響する要因間の関連を明らかにすること。

    対象と方法

    対象は,A県の7病院と6産科診療所で出産し,産後1か月健康診査に来院した日本人の高年初産婦。調査は属性と「子育てレジリエンス尺度」,「育児ストレス尺度短縮版」,「母親役割の自信尺度」,「母親であることの満足感尺度」,子ども総研式・育児支援質問紙のうちの「育児の印象」の5つの尺度,「疲労蓄積度自己診断チェックリスト」と「夜間睡眠の充足感」で構成された自記式調査用紙を用いて行われた。属性,各尺度の基本統計量の算出を行い,就労,サポートの有無別の育児困難感の得点を比較した。また各変数間の関係性について共分散構造分析をおこなった。

    結 果

    高年初産婦294人から回答があり,そのうちの有効回答252部(有効回答率85.7%)を分析した。平均年齢37.8歳(±2.4歳),最高年齢46歳であった。育児困難感の平均得点は18.1±4.6で,就労者の得点が高かった(p=.009)。サポートの有無による差はなかった。高年初産婦の育児困難感に直接影響していた要因は,母親役割の自信(−0.54)と育児ストレス(0.36)であった。子育てレジリエンスの上昇は,蓄積疲労(−0.33),育児ストレスの減少(−0.41),母親であることの満足感(0.31),母親役割の自信の向上(0.30)を介して,育児困難感を減少させた。さらに,子育てレジリエンスの上昇は夜間睡眠の充足感(0.31)を高め,蓄積疲労を減少させる(−.39)効果が認められた。

    結 論

    「母親役割の自信」と「育児ストレス」は,高年初産婦の育児困難感に直接影響していた。子育てレジリエンスは育児困難感に直接影響してはいなかったが,身体的状況である「蓄積疲労」,心理的状況である「夜間睡眠の充足感」「育児ストレス」「母親であることの満足感」「母親役割の自信」を経由して育児困難感を低下させていた。したがって,子育てレジリエンスは,すべての要因を経由して育児困難感に影響を与えている重要な要因として位置づけられる。

  • 梶井 敬子, 田淵 紀子
    2022 年36 巻1 号 p. 41-52
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    [早期公開] 公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

    目 的

    本研究の目的は,復職を機に断乳を決意した女性の心理的プロセスを明らかにし,働く女性にとって望ましい母乳育児支援を探ることである。

    対象と方法

    WHOは生後6ヵ月までの完全母乳育児と2歳までの継続を勧告していることから,本研究では正期産かつ2500g以上の単胎を出産後,母乳育児を行っていたが,母乳育児継続期間が2年経たずして復職を機に断乳を決意した母親12名を対象に半構造化面接を行い,M-GTAを用いて分析した。

    結 果

    復職を機に断乳を決意した女性の心理的プロセスは,8つのカテゴリ,18の概念が抽出された。女性は,復職前は【復職後も授乳は継続したい】という思いを抱いていたが,復職後は〈夜の授乳の辛さ〉から,次第に【夜の授乳と仕事の両立への不安】を感じるようになっていった。そして,〈周囲の意見から断乳を意識する〉ようになり,今の〈授乳の必要性を検討〉しはじめ,【子どもの成長に伴う授乳への抵抗】が現れるようになっていった。しかし,いざ断乳を始めようとすると,【断乳することへの漠然とした不安】を抱き,〈断乳によって生じる苦痛〉を感じていた。また,〈本当は続けていきたかった授乳〉でもあったため,〈終わってしまう授乳への寂しさ〉を感じ,【授乳が終わることへの抵抗】を抱くこともあった。そのため,〈子どもに対する罪悪感〉から〈子どもからの欲求に思わず応えてしまう〉こともあり,【断乳を決意したことへの後ろめたさ】をも感じていた。葛藤状態を繰り返しながらも改めて【断乳への強い決意と覚悟】をした女性は,〈妥協はしないという強い決意〉をして断乳に臨んでいた。そして,断乳が完了すると,自分の中で【断乳という決断を受け入れ】ていた。

    結 論

    働く女性にとって望ましい母乳育児支援とは,授乳を継続するにしても断乳をするにしても,働く女性のもつ力を尊重し,女性が自ら母乳育児の方法を選択し,納得できるよう支援する関わりが重要であることが示唆された。

  • 北島 友香, 西村 香織, 三加 るり子, 岡田 麻代, 小林 絵里子, 村田 美代子, 松井 弘美
    2022 年36 巻1 号 p. 53-65
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    [早期公開] 公開日: 2022/04/02
    ジャーナル フリー

    目 的

    妊娠後期および産褥早期における下部尿路症状と膀胱内尿量の実態を明らかにし,産褥早期の下部尿路機能の特徴を探ることを目的とする。

    対象と方法

    経腟分娩予定の単胎妊娠の女性を対象に,妊娠後期から産褥早期(産褥1~5日)に前方視的観察研究を行った。妊娠後期には,CLSSとICIQ-SFを用いた自記式質問紙調査と残尿量の測定を行った。産褥早期には,各日1回,排尿前に自覚的尿意と膀胱内尿量を,排尿後に残尿量と排尿困難および残尿感,尿失禁の有無を調査した。膀胱内尿量および残尿量の測定には携帯型超音波診断装置を用い,産褥早期の尿意減弱の有無は膀胱内尿量と自覚的尿意の比較により分類した。なお,本研究は富山県立大学の「人を対象とする研究」倫理審査部会の承認を得て実施した。

    結 果

    計23名を分析対象とした。妊娠後期の下部尿路症状の有症率は昼間頻尿および夜間頻尿が87.0%と最も高く,次いで尿失禁,尿意切迫感の順に高かった。ICIQ-SFスコアは平均5.0±3.9点であった。

    産褥早期の排尿前の平均膀胱内尿量は375.8~447.7mlであった。産褥4日が447.7±193.5mlと多い傾向にあり,47.6%の対象が500ml以上であった。下部尿路症状の有症率は尿意減弱が最も高く,産褥1日52.9%,産褥3日36.4%と減少傾向を示したが,産褥4日に42.9%と増加傾向となった。産褥日数と下部尿路症状の間に関連はなかった。ロジスティック回帰分析の結果,産褥4日の尿意減弱は妊娠後期のICIQ-SFスコアが高いほど生じていた(p=0.046,オッズ比1.35)。

    結 論

    産褥早期は,尿量が多くなる一方で尿意の知覚は産褥日数に限らず低下している可能性があり,膀胱が充満しやすい特徴がある。産褥4日の尿意減弱の有無には妊娠後期のICIQ-SFスコアが関連していた。

  • 中田(中込) かおり, 跡上 富美
    2022 年36 巻1 号 p. 66-79
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目 的

    生殖年齢にある20歳代から30歳代の就労男性を対象とし,妊孕性に関する知識の実態と情報ニーズについて明らかにすることである。

    方 法

    20歳以上40歳未満(2019年4月1日現在)の男性で,妻やパートナーが出産を経験していない500名を対象とし,2020年3月にウェブ調査を実施した。質問項目は,対象者の背景,妊孕性の知識と情報ニーズ,健康で気になること,妊娠・出産の情報源とした。妊孕性の知識は20項目で,齊藤の「不妊知識尺度13の質問」(2014)を許可を得て一部改変し,研究者らが作成した7項目を加えて使用した。記述統計量の算出,背景因子による層別解析,尺度の信頼性・妥当性の検討を行った。東邦大学看護学部倫理審査委員会より承認を得て実施した(承認番号:2019010)。

    結 果

    分析対象は500名,平均年齢29.8歳(SD=5.5),大学卒業以上60.6%,挙児希望有45.6%,パートナー有21.0%であった。妊孕性知識20項目すべてに「わからない」と回答した98名(19.6%)を分析から除外した結果,正答者割合は,平均42.1%(SD=23.9,最大67.7%,最小19.4%)であった。挙児希望(p=.003),不妊相談経験(p=.01)について有意差があり,年齢・最終学歴・パートナーの有無と関連はなかった。妊孕性知識20項目の信頼性・妥当性は確認された。妊孕性に関する情報ニーズがある人は54.4%で,年齢,食生活,生活習慣のニーズが高かった。健康で気になる項目がある人は42.4%であった。妊娠・出産の情報源は,パートナー,インターネット・SNSであった。

    結 論

    生殖年齢にある男性の妊孕性知識は,挙児希望や不妊相談の経験の有無により有意差が認められた。今後は男性の妊孕性知識の実態とニーズを踏まえ,情報提供と知識の普及・啓発をしていくことが課題である。

  • 菱谷 純子, 岡山 久代
    2022 年36 巻1 号 p. 80-92
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目 的

    非医療系及び看護系女子学生を対象に,次世代を生み出し育てる関心であるジェネラティヴィティの母娘世代間伝達とヘルスリテラシー及び健康との関連を明らかにする。

    方 法

    質問紙法による記述的横断的研究。対象者: 便宜的なサンプリングで選択された日本の7つの大学の非医療系学生(n=586)と看護学生(n=561)並びにその母親。測定用具: 母親のジェネラティヴィティは多面的世代性尺度,女子大学生のジェネラティヴィティは青年期の次世代育成力尺度,ヘルスリテラシーは性成熟期女性のヘルスリテラシー尺度,健康はShort Form 8で測定した。

    結 果

    女子大学生とその母親153組(有効回答率,13%)の回答を得た。非医療系52%(80/153),看護系48%(73/153)。学生の年齢18-29歳,母親の年齢39-62歳。多母集団同時分析の結果,非医療系と看護系共に,母親の「次世代育成への関心」は,女子大学生の「知恵の伝承」を高め「月経セルフケア」「女性の体の知識」「情報の選択と実践」を高める有意なパスが示された。さらに,非医療系学生に限り,「月経セルフケア」から「精神的健康」を低めるパスが示された(β=−.35,p<.05,R2=.21)。

    結 論

    母親の次世代育成への関心が高いほど,女子大学生が受けとる知恵が増加し,性成熟期女性の健康に関するヘルスリテラシーを高めることが確認された。また,非医療系学生に限り,月経セルフケアを実施しているほど精神的健康が低いことが確認された。

資料
  • 山本 佳奈, 田淵 紀子
    2022 年36 巻1 号 p. 93-104
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    [早期公開] 公開日: 2022/01/28
    ジャーナル フリー

    目 的

    近年,日本において硬膜外麻酔分娩(以下,無痛分娩)は増加傾向を示しており,ニーズの増加が予想される一方,助産師の中には,無痛分娩に対して否定的で,受容しがたいと感じるものがいるとされている。本研究の目的は,無痛分娩に携わる助産師が,どのような思いを抱きケアを行っているかを明らかにすることである。

    対象と方法

    研究デザインは質的記述的研究である。無痛分娩に携わった経験のある助産師16名を対象に,半構造化面接を行った。得られたデータから逐語録を作成し,無痛分娩に携わる助産師の思いが語られている部分を抽出し,コード化し,カテゴリに分類した。

    結 果

    無痛分娩に携わる助産師の思いは,6のカテゴリに集約された。【無痛分娩にも良さがあるという実感】【無痛分娩を受け入れようとする思い】では,無痛分娩に携わる助産師だからこそ持つ肯定的な意見と,それゆえに無痛分娩の増加に対応していこうとする語りがみられた。一方,助産師は【分娩が安全かつ順調に進行するように支援する難しさ】【無痛分娩に関する知識不足による不安や難しさ】を抱いており,無痛分娩の支援の難しさを感じていた。【無痛分娩に携わることによる自然分娩の良さの再認識】では,無痛分娩と関わる中で生じる自然分娩の良さへの実感が語られていた。以上のカテゴリを背景に,【産婦の希望に沿い無痛分娩の支援をする中で生じる自身の助産師としての思いとの葛藤】がみられた。

    結 論

    無痛分娩に携わる助産師は,無痛分娩の良さや支援の難しさを感じ,葛藤していた。その中でも,妊産婦の希望に沿い,安全な無痛分娩となるよう関わっているということが明らかとなった。安全で満足度の高い無痛分娩を提供するためには,助産師が無痛分娩に関する正しい知識を身に付け,また妊産婦の希望や想いに寄り添い,その選択を支える姿勢で関わる事が必要である。

  • 内江 希, 三反崎 宏美, 上澤 悦子
    2022 年36 巻1 号 p. 105-114
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    [早期公開] 公開日: 2022/01/26
    ジャーナル フリー

    目 的

    わが国の助産所の熟練助産師が実施している胎児娩出手技と考え方について調査分析し,現在の主な2つの助産学基礎テキストにおける分娩介助時の技術(会陰保護法)と比較検討することを目的とした。

    対象と方法

    首都圏と近畿圏の助産所管理者25名に調査を依頼し,そのうち8名の熟練助産師が対象となった。著者の先行研究(2018)で明らかにした分娩第2期の胎児娩出手技について,熟練助産師の胎児娩出手技と考え方の実際をファントム使用での動画撮影,ICレコーダーでの録音調査,半構造的面接を依頼した。データ収集期間は2017年7月から8月とし,分析方法は,記述的方法を活用して質的分析を行った。

    結 果

    8名の熟練助産師が対象となった。児頭娩出時の手技は,第3回旋の抑制も促進も行わず,肩甲娩出時は陣痛を待ち,児が屈位姿勢の小さいままの娩出となるよう両手で児をホールディングして前方にゆっくりと娩出していた。熟練助産師は,児は自然な陣痛によって回旋しながらゆっくりと生まれてくると考えており,会陰保護は実施せず,児娩出時の積極的介入は行っていなかった。

    結 論

    助産所熟練助産師が実施している胎児娩出手技は,現在の主な2つの助産学基礎テキストにおける分娩介助時の技術(会陰保護法)とは異なる内容であった。児が屈位姿勢を保持できるよう,小さいままでの娩出を実施し,肩甲から躯幹娩出時も,自然な陣痛を待ちゆっくり娩出させることが,分娩外傷予防だけでなく,出生後の児の健康状態促進のために重要と考えていた。

  • 佐藤 恵, 大谷 良子, 江守 陽子
    2022 年36 巻1 号 p. 115-128
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    [早期公開] 公開日: 2022/05/11
    ジャーナル フリー

    目 的

    新型コロナウイルス感染症パンデミック時の,2020年6~9月時点で行われていた岩手県における産科医療施設の感染症対策および妊産婦ケアの実態を明らかにする。

    方 法

    2020年6~9月の新型コロナウイルス感染症対策および妊産婦ケアについて,岩手県内の出産を取り扱う産科医療施設の看護管理者に質問紙調査を行った。

    結 果

    周産期母子医療センターおよび総合病院11施設,診療所6施設,計17施設を分析対象とした。新型コロナウイルス感染症の疑いのある妊産婦に対する基本方針を策定済みまたは検討中の施設は16施設あった。基本方針の内容は「発熱外来で対応する」「診療ブースや診療時間帯を分ける」等であった。また妊産婦ケアでは「集団指導は個別指導に移行」「面会禁止」「立ち会い出産の禁止」の反面,「丁寧な説明や精神的支援の強化」「ICTを活用し家族と出産の喜びが共有できるよう配慮」等の工夫に努めていた。一方で「実際にCOVID-19患者に直面したときに,正しくケアができるか不安」「個人防護具等感染対策のための物品不足に対する不安」等が挙げられた。看護者自身は「毎日の検温」や「県外外出の自粛」などを行っていた。

    結 論

    調査時点では,岩手県内の新型コロナウイルス感染症陽性者が確認され始めたばかりで,対象施設ではCOVID-19陽性妊婦未対応であったが,ほとんどの産科医療施設が感染症対応の方針を策定していた。妊産婦ケアとしては,集団指導を個別指導に変更,妊産婦が外界と遮断されることに対しては,ICTの活用,会話する時間を多くするなどの精神的支援の強化等により対応していた。また看護者は医療提供側の人員や衛生材料の不足に対し,負担を感じながらも対応することと代替で工夫し対応する一方で,COVID-19陽性妊産婦に直面した時,自分が果たして適切にケアできるか等の不安や緊張感が強かった。

  • 柴田 愛, 藤田 愛, 山口 咲奈枝, 吉村 桃果
    2022 年36 巻1 号 p. 129-136
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    [早期公開] 公開日: 2022/04/02
    ジャーナル フリー

    目 的

    妊婦の歯周病は,早産や低出生体重児の増加と関連があり,妊娠期の口腔衛生行動は重要である。本研究は,COVID-19感染拡大時期を過ごした妊娠中期の妊婦の口腔衛生行動と歯周病自覚症状について明らかにする。

    対象と方法

    横断的量的記述研究である。対象者は,A病院の妊婦健康診査に通う妊娠中期の妊婦で,調査期間は,2020年6月から2021年5月,データ収集は,診療録とWEB調査である。調査内容は基本属性,妊娠中期の1日の食事回数,COVID-19感染拡大前後の口腔ケア,妊娠中期の1日の歯みがき回数と歯周病自覚症状,妊娠中期までの歯科受診である。

    結 果

    113名の妊婦から回答を得た。就業している割合は68.1%で,そのうちCOVID-19感染拡大後も勤務先に出勤していた者は94.8%であった。1日の食事回数は4回以上の妊婦は66.3%であった。感染拡大前よりも口腔ケアが増えた妊婦は33.6%であり,そのうち帰宅後,仕事中,歯磨き後のいずれかで水やうがい薬でのうがいの回数が増えた妊婦は86.8%であった。1日の歯みがきの平均回数は2.9±0.8回であったが,間食後に歯磨きを行う者は9.7%であった。妊娠してから妊娠中期までに歯科受診した者は56.6%であったが,その中で歯科受診後も「歯周病自覚症状有り」に該当した妊婦は53.1%いた。

    結 論

    COVID-19感染拡大時期を過ごした妊娠中期の妊婦の口腔衛生行動は,感染予防のために口腔ケアを行う者が存在した。一方で,間食後の歯みがきを行っていない者がいることがわかった。また,COVID-19感染拡大時期でも高い歯科受診率であったことはCOVID-19終息後の受診率にも期待の余地があると考えられた。妊娠してから妊娠中期までに歯科受診をしていても,その後歯周病自覚症状が有る妊婦が存在したことから妊娠中の定期的な歯科受診の重要性が示唆された。

  • 山﨑 由美子
    2022 年36 巻1 号 p. 137-146
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目 的

    裁判における助産師の主張に着目し,助産師が行ったケア及び説明責任を検討することは,医療過誤防止につながる重要な課題を導くと考える。本研究は,患者家族と対立した助産師の主張が認められず,過失が認定された医療過誤裁判における裁判所の事実認定を通し,医療過誤防止への課題を見出すことを目的とする。

    対象と方法

    法律データベースを用い,1999~2020年の医療過誤裁判を検索し,主要な争点のうち助産師の主張の多くが否認された裁判例の収集及び分析を行う。分析は,時系列に沿って作成した診療経過表をもとに争点,当事者の主張,問題の背景を整理する方法である。

    結 果

    2020年4月~12月の期間で「医療事故」and/or「出産」でキーワード検索し,2件を研究対象とした。何故,助産師の主張が認められなかったのか,裁判所の事実認定を検討したところ,書証では「記録及び保存方法の不備」,「提出された資料による助産師の手技の推定」,人証では「一貫性及び整合性の評価」,「他の医療者の不一致証言による心証形成」,その他として「裁判における初期対応の影響」が課題として挙げられた。

    結 論

    書証の検討では,記録及び保存方法の不備が証拠としての価値に疑義をもたらすこと,提出された資料により助産師の手技に問題があると推定されること,人証の検討では,一貫性及び整合性の評価や医療者の不一致証言が心証形成に影響を及ぼすことがわかった。助産師として従事している間の行動は,提出された証拠や助産師の証言等をもとに検証されるため,この過程において自らの行動に対する責任を持つことが重要と考える。

  • 赤嶺 唯, 島田 友子
    2022 年36 巻1 号 p. 147-160
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    目 的

    キネステティク・クラシック・ネオ(以下,クラシック・ネオとする)体験学習後の更年期女性の動きの変容プロセスを明らかにし,クラシック・ネオ体験学習の意義および更年期女性の健康支援に向けた課題について検討する。

    対象と方法

    キネステティクを体験したことのない更年期女性14名を対象に,クラシック・ネオ体験学習会を行い,体験学習直後および体験学習後1週間時点,体験学習後1ヵ月時点で,クラシック・ネオを体験して感じたことや気づいたこと,体験学習内容の実践状況などについて調査を行った。SCATの手法を用いて,クラシック・ネオ体験学習後1ヵ月の間に動きの変容について語りのあった12名のデータの分析を行った。

    結 果

    更年期女性は,クラシック・ネオ体験学習を通して,【動きの体験から得た安楽な体感の気づき】,【習慣的な動きに潜む身体的負担の気づき】,【動きのセルフケアによる身体的リスクの回避の気づき】などを得ていた。【加齢による変化に対する不安の払拭】や【安楽な動きの実践による効果の期待】から,【心身の状態に合わせた動きのセルフケアの実践意欲】を示し,体験学習後1週間時点では,全員が何らかの体験学習内容を実践していた。体験学習後1ヵ月時点では,半数の者が【良姿勢への改善に向けた動きの実践】や【からだへの負担が少ない動きの実践】を継続していた。しかし,残りの半数は,【時間経過に伴うさらなる学習内容の忘却感】や【習慣的な動きの変容の困難感】などの理由により,動きの実践頻度が減少していた。

    結 論

    クラシック・ネオ体験学習後の更年期女性は,“動き”の感覚に意識を向け,動きのセルフケアを一時的または継続的に実践していた。動きのセルフケアを学ぶことにより,更年期以降のQOLが高まる可能性が示唆される。更年期女性の健康支援に向けて,女性が継続して体験学習できる機会づくりが必要である。

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