目 的
熟練助産師と初学者の会陰保護時の会陰にかかる圧力値・せん断力値とその経時的変化を比較し,手技の違いと特徴を分析する。
方 法
教員及びアドバンス助産師10名(熟練助産師),助産学生及び新人助産師10名(初学者)を対象とした。滅菌手袋の上から右手の手掌中央に力覚センサを装着し,鶏卵大に発露している状態から3回の陣痛周期で児頭娩出される分娩シミュレーションでの,会陰保護実施中のファントムの会陰部にかかる圧力値・せん断力値を測定した。得られた圧力値のデータをグラフ化しパターン分類を行い,熟練助産師と初学者による比較を行った。各陣痛周期の最大圧力値の差は一元配置分散分析,最大圧力値の2群間の比較はStudentのt検定を行った。また,圧力の方向を視覚的に捉えるため,各タイミングのせん断力値の相対座標をベクトルとして表示し分析した。
結 果
得られた圧力値のデータをグラフ化したところ,熟練助産師は全員間欠期と収縮期で圧力値に差が出るパターンであったのに対し,初学者では10人中4人が常に一定の圧力値で推移しているパターンが見られた。熟練助産師の各陣痛周期の最大圧力値を比較するため,一元配置分散分析を行った。その結果,熟練助産師の最大圧力値は陣痛周期1,2では同程度であり,陣痛周期3では陣痛周期1,2と比較して有意に高いことが分かった。初学者でも同様の分析を行った結果,陣痛周期3では陣痛周期2に比べて高いものの,陣痛周期1と陣痛周期2,3は同程度であることが示された。熟練助産師と初学者の陣痛周期ごとの最大圧力値の比較を行うためStudentのt検定を行った結果,熟練助産師は陣痛周期1,2において初学者よりも最大圧力値が低いが,陣痛周期3では同程度に圧力をかけていることが示された。陣痛周期3のせん断力について,後頭結節滑脱時,児の鼻が娩出し始める時点,圧力値が最大となった時点での分析を行った結果,どの場面においても熟練助産師は初学者と比べて産婦の前方(恥骨方向)へとせん断力がかかっている傾向にあることが視覚的に示された。
結 論
熟練助産師と初学者の会陰保護時の会陰にかかる圧力値・せん断力値とその変化に違いがあることが明らかとなり,初学者には圧力をかける必要のあるタイミングとその強さ,また圧迫の方向について一連の分娩介助を通して経時的に指導する必要があることが示唆された。