抄録
本研究は, 出生前検査によって胎児の異常を告げられた妊婦がその後の妊娠期から, 出産・産後に, どのような体験をしているのかを記述することを目的としている。ここでは研究協力者Fさんの語りと日記をデータとして質的帰納的に分析を行った。データ収集期間は1998年10月12日~99年1月12日であり, データ収集は非構成的な面接方式で行った。データ分析方法については, 本研究が研究協力者の主観性の記述を目的とするため, それを目的とした研究法である現象学的分析方法を参考にした。
妊娠期に胎児に予想外の出来事があった中で出産を選んだFさんの, 固有の体験の記述をした後, その解釈を行った。考察および看護への示唆は以下のとおりである。
妊娠中, 胎児診断を通じて児の障害の可能性を示された後, Fさんは胎児に対する「生きて欲しい思い」と「葬りたい思い」のせめぎ合いを体験する。生まれてくるわが子がハンディを背負うことを直視し, ハンディをもった子どもを育てていく自分への重圧を感じながら, 今の自分の生き方そのものを見つめる。Fさんは一時極限状態にあったが, 徐々に周囲の人びとと新たな関係をつくり上げていく。そして, 障害をもって「共に」生きていくことを問うことから, 生まれてくる「その子」と共に生きていくことを考える。