日本全身咬合学会雑誌
Online ISSN : 2435-2853
Print ISSN : 1344-2007
原著
高齢者の食べる力と咬合・口腔機能
後藤 崇晴市川 哲雄藤原 真治小谷 和彦坂根 直樹
著者情報
ジャーナル フリー

2025 年 31 巻 1-2 号 p. 10-14

詳細
抄録
高齢者の健康を決定するうえで栄養摂取は重要な役割を果たしており,栄養不足は虚弱やサルコペニアのリスクを高める.栄養を考えるうえで,咀嚼能力だけでなく,食品の選択,満足感,食事の楽しみといったより幅広い側面を含む⌈食べる力⌋という概念が注目されている.本研究では,高齢者の⌈食べる力⌋と咬合や嚥下機能との関係を,中山間地域の研究データを用いて検討した.Mima-SONGS研究から高齢者63名を対象とし,咬合力,咬合接触面積,前後的,水平的咬合バランス,反復唾液嚥下テスト(RSST),⌈食べる力⌋を評価する10質問から検討した.その結果,全体として⌈ゆっくり嚙んで食べる⌋や⌈一口量を減らして食べる⌋といった具体的な咀嚼行動に関しては比較的評価が低かった一方で,⌈水分を適宜取って食べる⌋や⌈いろんな食品に親しむ⌋など,食行動全般に関する配慮のほうが高く評価されていることが確認された.咬合力が低い高齢者ほど,食べやすく調理し,ゆっくり嚙む工夫をしていることが示された.また,前後的咬合バランスは,その重心が前方にある被検者ほど⌈食べやすく調理している⌋ことが観察された.つまり,高齢者は自身の口腔機能状態に応じて,食事行動を調整していることが示された.
著者関連情報
前の記事 次の記事
feedback
Top