植物研究雑誌
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大分県からのツクシカイドウ(バラ科)の再発見
池谷祐幸猪上信義黒岩展子岩坪美兼
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2020 年 95 巻 2 号 p. 69-75

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抄録

 大分県中津市においてツクシカイドウMalus hupehensis (Pamp.) Rehder(バラ科)の野生集団を再発見した.本種は中国中南部に広く分布するが,日本では熊本県(当時の西山村)及び大分県(当時の下毛郡)で1920–1930年代に発見されたのみであった.このうち熊本県の集団は1970年頃に野生絶滅したため,栽培個体のみが現存する.大分県のものも長い間不明であったが,筆者のうちの猪上と黒岩は,中津市の山間部でリンゴ属植物の小集団を発見した.この植物の形態を調査し,熊本県のツクシカイドウなどと比較した結果,片巻きの幼芽,無毛で光沢のある葉身,卵形から三角形で鋭頭の萼裂片,散毛のある花柄等の特徴から,中津市のリンゴ属植物もツクシカイドウであり,日本に残るこの種の唯一の野生集団であると結論した.

 また,大分,熊本の両集団についてマイクロサテライト遺伝子型解析を行ったところ,どちらの集団も同一地域の個体間では遺伝的多型がなく,さらに,一部の遺伝子座では3つの対立遺伝子がみられるため,無融合生殖性の倍数体である可能性がある.これを証明するにはさらなる解析が必要であるが,リンゴ属植物の倍数体では条件的無融合生殖をすることが知られており,外交配をする可能性も考えられるので,保全や増殖に当たっては注意が必要である.

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© 2020 植物研究雑誌編集委員会
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