植物研究雑誌
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Murtonia(マメ科アコウマイハギ連)の復活
大橋一晶大橋広好那谷耕司
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2020 年 95 巻 2 号 p. 76-84

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抄録

 マメ科アコウマイハギ連Desmodieaeはハギ,ウチワツナギ,アコウマイハギの3群に分けられている (Ohashi 2005).アコウマイハギ群を代表するアコウマイハギ属Desmodiumは最近までOhashi (1973)およびOhashi et al. (1981)による属の定義で受け入れられていた.しかしこの属が多系統であると分かり,2018年以後分子系統解析の結果に基づいて明らかにされた単系統群をそれぞれ独立属として再分類されている (Ohashi and Ohashi 2018a, b, c, 2019, 2020, Ohashi et al. 2018a, b, 2019a, b).その結果,従来アコウマイハギ属として分類されていたアジアの自生種は,アメリカからの帰化種を除いてほとんどが別属とされている.しかし,いくつかの種は,既存の標本が数点しかなく形態的観察が不十分でかつ分子系統解析のサンプルが得られないため,まだアコウマイハギ属として残されている.

 タイ固有の稀産種Desmodium craibii H. Ohashiはこの残された種の1つで,その分類上の位置については原発表以来問題視されてきた (Craib 1912, 1913, Hutchinson 1964, Ohashi 1982).原発表では本種はアコウマイハギ連とインゲンマメ連の中間とみられ,アコウマイハギ連としては独立属Murtoniaあるいはアコウマイハギ属の1種とみられてきた.標本数も少なかったが,幸い京都大学タイ植物調査の結果得られた標本の重複品がTUSにあり(Fig. 1),この問題の解決のためにこの標本からサンプルをとり,DNA解析を行うことができた.その結果得られた系統図によって(Figs. 3, 4),D. craibiiはアコウマイハギ連アコウマイハギ群に属すことが確定でき,その中でアコウマイハギ属から独立した固有のクレードを作っていた.これらの結果によってD. craibiiはアコウマイハギ連に属する独立属であると明らかになった.そこで所属をMurtoniaに戻し,その学名をMurtonia kerrii Craibとした.Murtoniaは花序に托葉状の苞(stipular bract)や腋芽を包む多数の鱗片葉があり,分子系統学的解析の結果を反映したこの属の新たな形態的特徴となった.

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© 2020 植物研究雑誌編集委員会
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