2024 年 11 巻 1 号 p. 35-45
要旨:膵臓癌等の終末期にみられる難治性腹水は,腹腔内圧亢進による強い腹部膨満感等の多彩な随伴症状を来し,日常生活動作を著しく低下させる.近年,その治療手段として腹膜濾過濃縮再静注法(CART)が普及しつつある.CARTは原腹水から不要な成分を除去して必要なタンパク質等を濃縮後,濃縮腹水を再静注する血液浄化療法である.一方,癌性腹水中には様々な液性因子に加え,マクロファージ等の免疫細胞が多く存在する.マクロファージは周囲の環境に応じて,M1-様あるいはM2-様へと可逆的に変化する(極性化).腫瘍壊死因子-α等の炎症性サイトカインによって誘導されるM1-様マクロファージは,抗腫瘍活性を発揮する.一方,インターロイキン(IL)-10等の抗炎症性サイトカインにより誘導されるM2-様マクロファージは腫瘍増殖を促進する.本研究では,CART施行前後の膵臓癌患者由来腹水がマクロファージの分極状態へ及ぼす影響を解析した.膵臓癌患者の原腹水及び濃縮腹水をヒトマクロファージ様細胞株のU937細胞へ各々処置したところ,対照群と比較してM-様マーカー(IL-10,CD163)のmRNA発現は増加した.さらに臨床検体のデータベースGEPIAによるバイオインフォマティクス解析の結果,膵臓癌患者の腫瘍組織中IL-10及びCD163の発現量は正常組織と比較して増加した.以上より,CART施行前後の腹水微小環境において,マクロファージは腫瘍増殖性のM2-様の分極状態にある可能性が考えられた.