抄録
ダウン症児における言語発達の特徴として,発話の不明瞭さが挙げられるが,単音節と単語の発語明瞭度には差が大きく,単音節明瞭度から期待される発語明瞭度が得られない事例が多いとの報告がある(石田,1999)。そこで,本研究では,ダウン症児7名と健常成人10 名に対して,日本語の語頭単母音と語中の連続した母音(二連母音:/io/,/oi/,/ao/,/oa/)について音響分析および聴覚的印象評定を行い,連続した構音を生成する際の舌の動きの困難さに関する評価を試みた。その結果,ダウン症児における二連母音での /i/ と /o/間の第2フォルマント(F2)の遷移幅が健常成人のものと比べて有意に減少していた。このことから,ダウン症児においては,母音を連続させて発声する際に舌の動きが制限され,そのことが単語レベルでの発語明瞭度を低下させる一因になっていることが示唆された。