2016 年 54 巻 1 号 p. 31-40
犯罪心理学を含めた実践領域の心理学方法論では,臨床における対象者の特徴を描き出すために,比較対照するコントロール群の構成問題が極めて重要である。本研究では,従来用いられてきたマッチング法の欠点を指摘しつつ,新たにモンテカルロ法の導入可能性を検証するため,両方法によるコントロール群を構成し,標的となる虐待された子どものWISC-IVにおけるプロフィール特徴を比較分析した。児童相談所の記録から,虐待された子ども(以下,虐待群)137名分のデータが収集され,交絡要因が統制された同数のマッチング群が抽出された。次にモンテカルロシミュレーションを用いて,理論的な母集団をモデルとした乱数データを生成し,虐待群の知能水準に近似するデータを反復抽出して検定を繰り返した。その結果,マッチング群のプロフィールには偏りが発見され,偏りのないモンテカルロ群のほうが,コントロール群としての適切性を有している可能性が示された。