2025 年 33 巻 1 号 p. 108-114
単関節での最大筋力発揮時やスポーツ動作時に噛みしめが生じることが知られている.ピッチャーの投球動作時には様々な下顎位を示すことが観察される.近年ではマウスガードを使用する選手もいることから,投球動作と噛みしめとの関連を調査することは投球障害を予防する上で重要であると考える.投球障害を予防するためには,肘内反トルクを増大させないことが重要であるが,投球動作と噛みしめとの関係を調査した報告はない.本研究の目的は,投球動作と噛みしめの関係性を調査することである. 対象は健常大学生7名とした.10m 先の防球ネットに向かって5球の全力投球を通常条件と噛みしめ条件の2 条件で行った.投球動作の計測はウェアラブルセンサーを用いて肘内反トルクの計測を行った. また,後方から投球動作を撮影し,最大外旋位での体幹側方傾斜角と骨盤側方傾斜角を画像解析ソフトを用いて計測した.統計学的解析には対応のあるt検定とWilcoxon の符号付順位和検定を用いて,肘内反トルク,体幹側方傾斜角,骨盤側方傾斜角を通常条件と噛みしめ条件で比較した.有意水準は5% とした. その結果,噛みしめ条件において肘内反トルク(p=0.01)と体幹側方傾斜角(p=0.01)が有意に増大した. 噛みしめにより頚部の動きが制限され,頸部の運動性の変化により体幹側方傾斜角が増大し,肘内反トルクの増大につながったと考える.