再開胸を伴う開心術では心大血管損傷や,創部,胸骨感染などのリスクが高く,なかでも冠動脈バイパス術後の再手術では,剥離に伴うグラフト損傷のリスクがあり術式の工夫が必要である.症例は冠動脈バイパス術を受けた既往のある69歳の男性で,息切れと心雑音の精査目的に紹介された.バイパスグラフトはすべて開存していたが,重度の虚血性僧帽弁閉鎖不全症のため,右開胸,内視鏡補助下に心拍動下両弁尖腱索温存の僧帽弁置換術を施行した.術後の経過は良好で術当日に人工呼吸器を離脱し,術後7日で合併症なく退院した.右開胸による心拍動下僧帽弁置換術は,グラフト損傷の回避,出血量の低減や手術時間の短縮などの観点から,冠動脈バイパス術後の再手術症例では有用なオプションの1つとなり得る.