2018 年 47 巻 6 号 p. 272-275
症例は57歳,男性.1973年,19歳時に僧帽弁狭窄症に対し,Björk-Shiley Delrin弁による僧帽弁置換術の既往がある.当院受診時は右半身不全麻痺,構語障害等の脳梗塞後遺症のため生活支援施設で生活していた.Björk-Shiley Delrin(BSD)弁の植え込みから38年が経過し,2011年胸痛(構語障害のため正確な表現ではない可能性がある)を主訴に当院を紹介受診した.2012年経食道心エコー検査で明らかとなった人工弁不全と大動脈狭窄兼閉鎖不全および三尖弁閉鎖不全に伴ううっ血性心不全に対し,僧帽弁位再弁置換,大動脈弁置換,三尖弁輪形成術を行った.術後経過はおおむね良好であった.摘出した人工弁のdiscは摩耗による溝と双方向性の亀裂を認め,discの断裂が危惧される状態であった.入院時の経胸壁エコー所見では経人工弁逆流はmild to moderateであった.この時点では人工弁の異常だけでは症状発現の可能性は低いと思われた.しかし,その後施行した経食道エコー検査の結果から連合弁膜症の状態に加え,discの異常による人工弁の経弁逆流が心不全を来した原因と判断した.今回,経食道心エコーによる精査が人工弁の明らかな異常の発見につながり,Disc断裂による重大な心事故を未然に防ぐことができたと推察された.本人工弁植え込み長期経過例では経胸壁エコーで軽微な人工弁の異常であっても,経食道エコー検査は人工弁を詳細に評価するうえで非常に有用である.経食道エコー検査で人工弁の異常を認めた場合,早期手術介入が必要であると考えられた.