2019 年 48 巻 6 号 p. 405-410
症例は60代女性.冠攣縮性狭心症で他院に通院加療中であった.経胸壁心エコー検査で左房内に心房中隔からバルサルバ洞後方の左房壁に至る広基性の可動性に富む腫瘍を指摘され,当院に紹介となった.CT検査やMRI検査の結果からは粘液腫が疑われた.手術は胸骨正中切開で行い,経心房中隔アプローチで左房腫瘍に到達した.左房内には同一の基部をもつ20×12×10 mm大と40×30×15 mm大の2つの腫瘍を認めた.粘液腫を念頭に約5 mmのマージンを確保して腫瘍を切除した.小さい腫瘍は充実性で粘液腫を疑った.大きい腫瘍は乳頭状で,生理食塩水に浸したところイソギンチャク様の特徴的な形態を示したことから乳頭状線維弾性腫を疑った.ウシ心膜パッチを用いて心房中隔欠損部を補填した.病理診断では,小さい腫瘍は索状,管腔様構造を形成する腫瘍細胞を認め典型的な粘液腫の像を認めた.大きい腫瘍の乳頭状構造部分にはcalretinin染色に陽性を示す腫瘍細胞を少数認め,villous typeの粘液腫と診断された.術前検査や肉眼所見で両者を鑑別することは困難であり,判断に迷う場合はマージンを設けて全層切除するべきである.