2020 年 49 巻 5 号 p. 271-274
症例は67歳男性.安静時呼吸苦を主訴に近医を受診した際に胸部レントゲンにてうっ血像,心電図異常を指摘され急性心不全の診断にて入院となった.心エコーでは高度大動脈弁閉鎖不全症(AR)と大動脈基部に解離腔の存在が疑われた.CTでは上行大動脈の拡大も指摘された.大動脈基部限局解離による急性ARの診断にて当院へ転院搬送され,緊急手術となった.術中所見にて,基部の限局解離ではなく,大動脈弁輪下左室瘤であることが判明したため,瘤を縫合閉鎖し,大動脈弁置換術と上行大動脈置換術を行った.大動脈弁輪下左室瘤は偶然発見されることが多い稀な疾患であるが,その中でもアジア地域での報告はきわめて少ない.手術ストラテジーを考える上では弁輪に対する処置が必要であり,こういった疾患が存在することを念頭に置いて術前評価を行うことが重要であると考えられた.今回われわれは大動脈基部限局解離の診断にて緊急手術となったが,術中所見より大動脈弁輪下左室瘤の診断となった1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.