日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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49 巻, 5 号
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巻頭言
原著
  • —移植しやすさ,術後早期弁機能,および構造的劣化に関して—
    青木 淳, 尾本 正, 丸田 一人, 益田 智章, 堀川 優衣
    2020 年49 巻5 号 p. 243-252
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    [目的]大動脈弁位Carpentier-Edwards Perimount Magna弁(Magna弁)とSt. Jude Medical Trifecta弁(Trifecta弁)の移植しやすさ,術後早期弁機能,構造的劣化に関して検討した.[対象・方法]Magna弁151例,Trifecta弁103例を対象とした.術後早期弁機能は,術後10日目に施行した心臓超音波検査で計測した平均圧較差(m-PG)・大動脈弁口面積を体表面積で補正したAortic valve area index(AVAI)で評価した.[結果]Trifecta弁では,1例で,術中にステントがST接合部で圧迫され変形したため,閉鎖不全を生じ,再置換が必要であった.移植された人工弁のサイズと大動脈遮断時間には有意差を認めなかった.19 mm・21 mm弁では,Trifecta弁のほうがm-PGが低く,AVAIも大きかった.23 mm以上の弁では,m-PGが20 mmHgとなる症例は稀で,AVAIが0.85 cm2/m2 未満となる症例の頻度にも有意差を認めなかった.Magna弁では,10年以上経過した2例で弁尖石灰化による構造的劣化を来し,Trifecta弁では1例で,術後27カ月目に弁葉亀裂による閉鎖不全に対する再弁置換を要し,構造的劣化回避率には有意差を認めなかった.[結論]Trifecta弁では移植時にサイズ選択に注意が必要である.小口径弁では,Trifecta弁のほうが,術後早期弁機能は良好である.Trifecta弁では術後早期構造的劣化を生じた症例を経験し,注意深い経過観察が必要である.

症例報告
[先天性疾患]
[成人心臓]
  • 鈴木 清貴, 恒吉 裕史, 秋本 剛秀, 植木 力, 山中 憲, 平野 雅大, 北方 悠太
    2020 年49 巻5 号 p. 267-270
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    右房内の心臓腫瘍に対し,右小開胸によって腫瘍摘出術を行い,病理結果から脂肪腫と診断された症例を経験したため報告する.症例は48歳男性.会社の健診で胸部Xpで気管偏位を指摘された.精査したところ偶発的に右房内に腫瘤を認めたため当院紹介となった.右小開胸によって腫瘍摘出術を行った.病理結果から脂肪腫と診断された.術後経過は良好で,術後6日目に退院となった.右小開胸による心臓手術は侵襲が少なく,良性腫瘍摘出術において有用と考えられる.

  • 中西 靖佳, 湯崎 充, 本田 賢太朗, 金子 政弘, 藤本 貴大, 上松 耕太, 長嶋 光樹, 西村 好晴
    2020 年49 巻5 号 p. 271-274
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は67歳男性.安静時呼吸苦を主訴に近医を受診した際に胸部レントゲンにてうっ血像,心電図異常を指摘され急性心不全の診断にて入院となった.心エコーでは高度大動脈弁閉鎖不全症(AR)と大動脈基部に解離腔の存在が疑われた.CTでは上行大動脈の拡大も指摘された.大動脈基部限局解離による急性ARの診断にて当院へ転院搬送され,緊急手術となった.術中所見にて,基部の限局解離ではなく,大動脈弁輪下左室瘤であることが判明したため,瘤を縫合閉鎖し,大動脈弁置換術と上行大動脈置換術を行った.大動脈弁輪下左室瘤は偶然発見されることが多い稀な疾患であるが,その中でもアジア地域での報告はきわめて少ない.手術ストラテジーを考える上では弁輪に対する処置が必要であり,こういった疾患が存在することを念頭に置いて術前評価を行うことが重要であると考えられた.今回われわれは大動脈基部限局解離の診断にて緊急手術となったが,術中所見より大動脈弁輪下左室瘤の診断となった1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

  • 成宮 悠仁, 吉田 英生, 大島 祐, 岸 良匡, 横山 昌平, 吉田 賢司, 佐伯 宗弘, 立石 篤史, 柚木 継二, 久持 邦和
    2020 年49 巻5 号 p. 275-279
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    僧帽弁輪石灰化(mitral annular calcification ; MAC)を伴う症例に対する僧帽弁手術では,通常の僧帽弁手術に比べて合併症リスクが高い.今回われわれは石灰除去のみで弁機能が改善し,弁置換を回避できた症例を経験したので報告する.症例は82歳の男性で,眼瞼浮腫と呼吸苦を契機に大動脈弁狭窄症(AS)と高度なMACを伴う僧帽弁狭窄症(MS)と診断された.僧帽弁置換術はリスクが高く,弁形成を試みる方針とした.僧帽弁前交連に交連切開を加えた後,超音波外科吸引装置(CUSA)を用いて前交連弁輪石灰除去を追加し,さらに大動脈弁切除後に大動脈弁口より僧帽弁前尖左室側の石灰除去を行った.大動脈弁置換術を行った後,経食道心エコー検査でMSが改善していることを確認した.術後検査でも僧帽弁圧較差の改善と弁口面積の拡大を認め,僧帽弁逆流は軽度であった.術後2年を経過して,MSの再発を認めていない.MACを伴う僧帽弁疾患の中には石灰化除去により弁形成を行うことができる症例もあり,本術式により,複雑な手技を要すことなく弁置換に伴う合併症を避けられる可能性がある.

  • 岸上 赳大, 松山 翔, 安恒 亨, 西村 陽介, 坂本 真人
    2020 年49 巻5 号 p. 280-283
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    心室中隔穿孔は貫壁性心筋梗塞に続発する予後不良の合併症である.救命を目的に外科手術を要することが多く,心膜パッチを必要とするが,術後に血栓塞栓症が問題になることは稀である.われわれは心室中隔穿孔手術後2週間目に広範な脳梗塞を発症し死亡した症例を経験した.その剖検所見では左室内の心膜パッチに血栓形成を認め,左室内血栓による心原性脳梗塞の可能性が疑われた.手術侵襲に伴う全身性炎症反応による血液凝固能亢進に加えて,心膜パッチの存在や縫合法に伴う心膜パッチの皺襞の形成など血栓形成を促進する因子が重複するので,心室中隔穿孔の手術後では左室内血栓も念頭においた術後管理の必要があると考えられた.

  • 野村 亮太, 中井 真尚, 川口 信司, 宮野 雄太, 後藤 新之介, 寺井 恭彦, 山田 宗明, 三岡 博, 山崎 文郞
    2020 年49 巻5 号 p. 284-287
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は87歳,男性.2019年1月に重症大動脈弁狭窄症に対して経大腿動脈アプローチにて経カテーテル大動脈弁植込み術(Transcatheter Aortic Valve Implantation ; TAVI)(Evolut PRO 29 mm)を施行した.術後問題なく自宅退院したが術後約8カ月で脳梗塞を契機に入院し血液培養陽性(Viridans Streptococcus),大動脈弁に可動性の疣贅を認め人工弁感染性心内膜炎(Prosthetic Valve Endocarditis ; PVE)と診断した.4週間の抗生剤治療の後,TAVI術後10カ月で胸骨正中切開にて人工弁摘出術,大動脈弁置換術を施行した.術後経過は良好で自宅退院となった.TAVI施行患者は併存疾患や脆弱性を有する高齢者であることが多く,合併症が起きた場合における侵襲的治療介入は高い死亡率になる.今回,TAVI術後10カ月で人工弁感染性心内膜炎に対して胸骨正中切開での大動脈弁置換術を施行した際の所見および手術時の工夫について報告する.

  • 菅野 靖幸, 加藤 泰之, 山内 秀昂, 陣野 太陽, 伊達 勇祐, 佐々木 健一, 清水 篤, 木山 宏
    2020 年49 巻5 号 p. 288-290
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は65歳男性.僧帽弁位機械弁のためワーファリンを内服していたが,エドキサバンに変更された3カ月後に急性心不全を呈し当院に搬送された.透視下での機械弁開放制限と僧帽弁圧較差の上昇を認め,血栓弁と診断し緊急再僧帽弁置換術を実施した.術後は良好に経過し,合併症なく術後10日目に自宅退院となった.機械弁使用症例に対しては,ワーファリン使用の必要性についてかかりつけ医や患者本人および患者家族への十分な啓蒙が必要である.

  • 川浦 洋征, 森田 英幹, 住吉 力, 白杉 岳洋, 長野 博司
    2020 年49 巻5 号 p. 291-294
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は55歳女性.先天性大動脈弁狭窄症に対して20歳で生体弁Carpenter-Edwardes PERIMOUNT(CEP),28歳時Björk-Shiley monostrut(BSM)弁による大動脈弁置換術を施行された.心不全徴候が進行し当院を紹介受診した.UCGでは弁の構造異常は認めず,Prosthesis-patient mismatchの診断で,手術適応とした.胸骨再正中切開でアプローチし,人工弁を除去後19 mmサイザーが通過せず,狭小弁輪であり弁輪は脆弱であった.21 mm機械弁を用いたComposite graftによる大動脈基部置換術を施行し,弁輪拡大を回避した.術後弁口面積は改善した.BSM弁は移植27年後であっても構造劣化はなくその耐久性が確認されたが,PPMをはじめとする非構造的劣化に対して,フォローが必要と考えられた.

[大血管]
  • 阿部 慎司, 上久保 康弘, 松本 嶺, 高平 真
    2020 年49 巻5 号 p. 295-299
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    弓部大動脈瘤被覆破裂に対する弓部大動脈置換術の術中に,血腫拡大から肺動脈狭窄をきたし,人工心肺離脱が困難となった1例を経験した.77歳男性が,胸背部痛を自覚し当院に救急搬送された.CTで66 mmの弓部大動脈瘤と瘤周囲の血液漏出像を認め,弓部大動脈瘤被覆破裂と診断した.待機的にオープンステントグラフトを用いた弓部大動脈置換術を施行したが,人工心肺離脱時に血圧低下と酸素化不良を認めた.肺動脈狭窄を疑い術中肺動脈造影を施行したところ,左右肺動脈の高度狭窄が判明した.自己拡張型ステントを留置し,人工心肺を離脱することに成功した.術後60病日にリハビリ継続のため転院となり,現在は独歩で外来通院されている.ヘパリン投与後に血腫拡大により手術中に肺動脈狭窄が進行し,ステント留置により人工心肺を離脱し得た稀な症例と思われ報告する.

  • 笠 兼太朗, 篠崎 滋, 渡辺 卓
    2020 年49 巻5 号 p. 300-304
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は57歳男性.二度の脳梗塞の既往があったが,後遺症はなく,服薬や通院を自己中断していた.農作業終了後の午後5時過ぎに,突然の左片麻痺が出現し,救急搬送された.頭部CTで右大脳基底核に新規梗塞巣を認めた,全身の造影CTで,上行大動脈内の陰影欠損と右内頸動脈閉塞,左椎骨動脈の閉塞を認めた.脳梗塞の原因は上行大動脈内血栓による塞栓症と診断した.急性期の頸動脈塞栓症に対する脳神経外科的な手術適応はなく,また血栓量が多いことから急性期血栓溶解療法の適応もないため,ヘパリンの持続点滴を開始して,待機手術の方針とした.入院後に神経症状の増悪はなく,発症第24病日に上行置換術を施行した.術後に大きな合併症もなく経過し,術後第1病日に抜管し,術後第31病日にリハビリ目的に転院した.術後6カ月を経過し,麻痺症状はほぼ消失し,その後のCTでも動脈内血栓の再発は認めない.

  • 菊先 聖, 赤岩 圭一, 中村 克彦, 尾田 毅
    2020 年49 巻5 号 p. 305-309
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    大動脈解離や大動脈瘤に播種性血管内凝固症候群(DIC)を伴う場合がある.DICでは凝固系と線溶系の破綻が生じ,そのバランスにより線溶抑制型,線溶均衡型,線溶亢進型に病型分類される.トラネキサム酸は抗プラスミン作用を有し,プラスミンがフィブリンを分解する過程を阻害することで線溶系を抑制する薬剤である.DICに対するトラネキサム酸投与は原則禁忌とされてきたが,非感染性慢性DICに対する使用の有効性の報告が散見される.大動脈解離,大動脈瘤に合併したDICに対してトラネキサム酸を投与し,良好な経過を得た2症例を経験したため,文献的考察を加え報告する.

[末梢血管]
  • 林 啓太, 秋好 沢林, 松原 健太郎, 長崎 和仁
    2020 年49 巻5 号 p. 310-316
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    症例1:53歳男性.右下肢間歇性跛行を主訴に近医を受診した.ABIの低下はなく,下肢超音波で右足関節底屈時に下腿動脈血流の低下を認めた.造影CTで右膝窩動脈に限局性の狭窄を認め,腓腹筋内側頭が膝窩動静脈間を走行しており,膝窩動脈捕捉症候群と診断した.手術は,腹臥位で膝窩後方からアプローチした.手術所見上,腓腹筋内側頭と外側頭,膝窩動静脈の位置関係から,Delaney分類II型と診断した.腓腹筋内側頭は大腿骨付着部で切離した.膝窩動脈の狭窄部は,内膜肥厚が軽度で,白色血栓の付着を認めたため,血栓除去のみ行った.症例2:37歳男性.左下肢間歇性跛行を主訴に近医を受診した.ABIは左下肢で0.76と低下し,造影CTで左膝窩動脈に限局性の造影欠損を認めた.左膝窩部では細い腱が膝窩動静脈間を走行しており,下肢MRIでも同様の所見を認め,膝窩動脈捕捉症候群と診断した.手術は,腹臥位で膝窩後方からアプローチした.腓腹筋内側頭の走行異常は認めなかったが,膝窩動脈背側を覆う硬く薄い線維性結合組織を認め,造影所見からDelaney分類IV型と診断した.膝窩動脈の閉塞部は内膜肥厚が著明であったため,同側の大伏在静脈を用いて置換した.今回われわれは,異なる病型と動脈の閉塞様式をもつ2例の膝窩動脈捕捉症候群に対して,それぞれに適した術式を選択し,治療する経験をしたので,文献的考察を加えて報告した.

各分野の進捗状況(2019年)
U-40 企画コラム 心臓血管外科専門医制度
  • 田中 千陽, 高木 大地
    2020 年49 巻5 号 p. 5-U1-5-U5
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    心臓血管外科専門医制度は新制度に移行しつつあり,現在のU-40世代は新旧過渡期の専門医といえる.専門医保持者も,これから専門医を取得する人も,新専門医制度について知り将来の心臓血管外科の教育を討論すべき時期にきていると考える.本号を皮切りに,U-40コラムは新専門医制度を題材にしたシリーズを展開する.今回はU-40幹事へのアンケート調査を通して,専門医制度に対する生の声を届ける.若手心臓血管外科医が専門医制度についての認識を深め,より良い修練環境のために意見交換する材料にしていただければ幸いである.

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