2024 年 53 巻 1 号 p. 29-32
梅毒の晩期合併症として知られる心血管梅毒,梅毒性血管炎であるが,実際の臨床現場で遭遇することは少ない.しかし近年は梅毒の症例増加が報告されている.患者は66歳男性,呼吸困難を主訴に来院.左冠動脈入口部閉塞と大動脈弁閉鎖不全に対する外科治療の術前検査で梅毒血清反応陽性から心血管梅毒と診断した.これまでに検査で梅毒を指摘されたこともなく自覚症状も認めなかった.アモキシシリン投与3週間後に生体弁使用の大動脈弁置換術と冠動脈バイパス術を施行.大動脈壁は黄色変性し全周性に壁肥厚が著明で内膜にはびらんを認めていた.左冠動脈が起始する部位は内膜肥厚により閉塞し窪みのような瘢痕のみがみられた.大動脈弁は三尖で左冠尖の肥厚,短縮を認めた.病理所見では大動脈中膜への炎症細胞の浸潤がみられ梅毒性血管炎に矛盾しない所見であった.術後経過は問題なく,外来で抗生剤投与を続けている.