日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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53 巻, 1 号
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巻頭言
症例報告[先天性疾患]
  • 片山 秀幸, 恒吉 裕史, 瀬戸﨑 修司, 和田 拓己, 下村 俊太郎, 菅藤 禎三, 木村 崇暢, 竹内 彬, 猪飼 秋夫, 湊谷 謙司
    2024 年 53 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は29歳男性,出生時に心雑音があり,先天性大動脈二尖弁を指摘されていた.11歳時にRoss手術を受けている.その後,大動脈基部拡大とmoderateの大動脈弁閉鎖不全(AR)および肺動脈弁閉鎖不全が指摘されたため,当科を紹介受診した.心臓CTで大動脈弁のgeometric heightは保たれており,術中所見でも大動脈弁位肺動脈弁葉の性状は良好であり,Valsalva graft 28 mmを使用した自己弁温存基部置換術(Reimplantation法)および肺動脈弁置換術(インスピリスRESILIA大動脈弁25 mm)を施行した.術後ARは消失し,患者は術後8日で退院し,1年後の外来でも心エコー上ARの再発を認めなかった.先天性心疾患手術後に長期生存する症例が蓄積される中で,Ross手術術後の大動脈基部拡大が問題になることが近年判明してきた.本症例では弁葉の性状に問題なく,通常の成人症例とまったく同様にReimplantationを施行し得た.若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 大橋 伸朗, 茅野 周治, 小松 正樹, 市村 創, 山本 高照, 中原 孝, 福家 愛, 和田 有子, 瀬戸 達一郎
    2024 年 53 巻 1 号 p. 6-9
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/02/06
    ジャーナル フリー

    右肺動脈–左房交通症(Right pulmonary artery-left atrial communication)は,多くは成人以前に発見される稀な先天性心疾患で,主な症状はチアノーゼ,労作時息切れなどである.今回われわれは,51歳の男性で脳膿瘍を契機に発見された,大きく瘤化した右肺動脈–左房交通症を経験した.単純結紮のみでは盲端となった瘤に血栓を生じ塞栓症を来すことを危惧し,左房への開口部を自己心膜patchで閉鎖したので報告する.

症例報告[成人心臓]
  • 石垣 隆弘, 高柳 涼, 上久保 康弘
    2024 年 53 巻 1 号 p. 10-15
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/02/06
    ジャーナル フリー

    60代男性.連続性雑音精査目的の冠動脈CT検査で主肺動脈前面に肺動脈瘻を伴う18 mmの,側面に10 mmの冠動脈瘤を認めた.右バルサルバ洞と左前下行枝から起始する異常流入血管が主肺動脈周囲で複雑なネットワークを形成していた.冠動脈瘤は嚢状であり瘤破裂予防のため,また冠動脈肺動脈瘻は無症候性であるものの将来的な心不全や塞栓症,心筋虚血を予防する目的で手術適応と判断した.外科的瘻孔・瘤閉鎖術と経皮的塞栓術によるハイブリッド治療の方針とした.手術は胸骨正中切開,人工心肺下に行った.心拍動下に右バルサルバ洞から起始する異常血管を結紮した.次に心停止とし,主肺動脈前面の冠動脈瘤を切開して瘻孔を閉鎖し,またその流入血管を結紮して瘤を縫縮閉鎖した.左前下行枝から起始する異常血管および主肺動脈側面の冠動脈瘤は左前下行枝に近いことから損傷のリスクを懸念し後日経皮的コイル塞栓術を行った.術後のCT検査で冠動脈瘤や異常血管の遺残は認めなかった.ハイブリッド治療は両治療法の合併症リスクを低減させ,かつ確実な瘻孔・瘤閉鎖を得るために有用な方法であると考えられた.

  • 德島 実佳, 諸隈 宏之, 馬場 康平, 竹内 祐貴, 林 奈宜, 陣内 宏紀, 古賀 秀剛, 柚木 純二, 蒲原 啓司
    2024 年 53 巻 1 号 p. 16-19
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は81歳女性.約半年前に当院で重症大動脈弁狭窄症に対してTAVI(Evolut PRO® 26 mm)を施行した.術後合併症なく軽快退院となったが,術後6カ月で発熱,腰痛,炎症所見高値を認めた.腰椎MRIで,化膿性脊椎炎,硬膜外膿瘍の診断となり,ドレナージ手術が行われた.その際の血液培養は陽性(Enterococcus faecalis)であった.頭部のMRIで右前頭葉に点在する亜急性の梗塞像が認められ,経食道心エコー検査では人工弁尖に高輝度の付着物を認め疣贅が疑われた.人工弁感染性心内膜炎(PVE)の診断となり保存的に抗菌薬加療を開始したが,徐々に疣贅の増大や可動性を認めたため,外科手術の方針とした.胸骨正中切開にて人工弁摘出術,大動脈弁置換術を施行した.術後経過は良好で,感染の再燃なく術後26日目に他病院へリハビリ目的に転院となった.一般的にTAVI患者は高齢で併存疾患も多く,手術リスクが高いが,TAVI後のPVEにおいて,内科的治療が奏功しない場合には開胸による根治手術を考慮する必要がある.今回TAVI後のPVEに対して外科的大動脈弁置換術を施行した症例を経験したため報告する.

  • 土肥 正浩, 宮崎 隆子, 木谷 公紀
    2024 年 53 巻 1 号 p. 20-24
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は76歳女性.僧帽弁逸脱による重症の僧帽弁閉鎖不全症,三尖弁閉鎖不全症に対して僧帽弁形成術および三尖弁形成術を施行した.人工心肺からの離脱は容易で経食道心エコー検査でも壁運動異常は認められなかった.手術翌日より低心拍出量症候群に陥り,トランスアミナーゼ値および血清心筋逸脱酵素値が上昇した.経胸壁心エコー検査(TTE)では,広範囲にわたる心尖部の無収縮およびballooningと基部の過収縮を認め左室駆出率(LVEF)は20%と低下していた.左室壁運動の改善は認められず術後8日目に左房内血栓を原因とする心原性脳梗塞を発症した.同日カテーテルを用いた血栓回収術を施行し後遺症なく経過,術後13日目のTTEにてLVEF 29%となり,わずかに心尖部の壁運動の増強が認められるようになった.術後27日目にはLVEF 65%となり,壁運動は正常化した.心電図所見はII,III,aVF,V3-6の陰性T波が術後1カ月以上遷延し,2カ月後に正常化した.手術前後の冠動脈造影検査に異常を認めなかったため,僧帽弁形成術後に発症したたこつぼ心筋症と診断した.開心術後に発症するたこつぼ心筋症は比較的に稀であり,その特徴とともに文献的考察を加えて報告する.

  • 神戸 将, 池原 大烈, 飯塚 慶, 森田 耕三, 新浪 博士
    2024 年 53 巻 1 号 p. 25-28
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は65歳男性.手術適応のある大動脈弁狭窄症の診断で手術目的に当科紹介となった.大動脈弁置換術を計画し,患者本人が生体弁を希望した.術中所見で大動脈弁輪径19 mm.患者–人工弁ミスマッチを防ぎ,将来valve-in-valveを行う上で必要十分な大きさの内巻き弁を植え込むため,Bo Yang法による弁輪拡大術を併施した大動脈弁置換術(Inspiris 25 mm)を行った.術後経過は良好.術後の基部形状評価のため3DCTを行った.人工弁は大動脈基部に対してズレや傾きなく自然な形状で植え込まれ,Valsalva洞も十分拡大していた.Bo Yang法による弁輪拡大術+大動脈弁置換術は,大動脈弁に介入が必要な患者のライフタイムマネージメントを意識した治療戦略を検討する上で,有用な選択肢になると思われた.

  • 漆野 恵子, 嶋岡 徹, 木村 龍範
    2024 年 53 巻 1 号 p. 29-32
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/02/06
    ジャーナル フリー

    梅毒の晩期合併症として知られる心血管梅毒,梅毒性血管炎であるが,実際の臨床現場で遭遇することは少ない.しかし近年は梅毒の症例増加が報告されている.患者は66歳男性,呼吸困難を主訴に来院.左冠動脈入口部閉塞と大動脈弁閉鎖不全に対する外科治療の術前検査で梅毒血清反応陽性から心血管梅毒と診断した.これまでに検査で梅毒を指摘されたこともなく自覚症状も認めなかった.アモキシシリン投与3週間後に生体弁使用の大動脈弁置換術と冠動脈バイパス術を施行.大動脈壁は黄色変性し全周性に壁肥厚が著明で内膜にはびらんを認めていた.左冠動脈が起始する部位は内膜肥厚により閉塞し窪みのような瘢痕のみがみられた.大動脈弁は三尖で左冠尖の肥厚,短縮を認めた.病理所見では大動脈中膜への炎症細胞の浸潤がみられ梅毒性血管炎に矛盾しない所見であった.術後経過は問題なく,外来で抗生剤投与を続けている.

症例報告[大血管]
  • 河野 敦則, 大村 篤史, 長命 俊也, 浜口 真里, 阪口 和憲, 中井 秀和, 山中 勝弘, 井上 武, 岡田 健次
    2024 年 53 巻 1 号 p. 33-37
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/02/06
    ジャーナル フリー

    腎動脈上遮断および異所性腎動脈再建を要した馬蹄腎を伴った解離性腹部大動脈瘤の1例を経験したので報告する.症例は60歳男性.従来の左右の腎動脈とは別に,異所性腎動脈を2本認め, 正中側と右側の馬蹄腎を灌流していた.経腹膜到達法で手術を行い,馬蹄腎峡部を離断せずに腹部大動脈瘤の剥離が可能であった.腎動脈下レベルで腹部大動脈を遮断し大動脈瘤を切開した.異所性腎動脈を同定した後におのおのに灌流カニューレを挿入し,4℃に冷却したリンゲル液を主成分とする腎保護液を注入した.その後,腎動脈上に大動脈遮断を移し,腎動脈分岐直下のレベルで中枢側吻合を行った.腎動脈上遮断時間は23分であった.その後,正中,右側の順に異所性腎動脈を再建し,おのおのの虚血時間は73分,103分であった.血清クレアチニン値は術前1.17 mg/dlから術後2日目に3.63 mg/dlまで上昇したが,以後は徐々に低下し,退院前の血清クレアチニン値は1.25 mg/dlであった.造影CTで再建した異所性腎動脈はすべて開存していた.術後経過は大きな問題なく,術後21日目に独歩退院した.術後1年経過し,腎機能悪化なく大きな問題を認めていない.

  • 大谷 享史, 三好 麻衣子
    2024 年 53 巻 1 号 p. 38-42
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は64歳男性.起床後に両下肢が動かないことに気づき救急要請.来院時両下肢の脱力,腹痛,腰痛を認めた.CT検査・腹部血管超音波検査にて最大径65×62 mmの腹部大動脈瘤を認めた.後壁側に血栓を認め,血栓内にCT画像ではhigh density area,腹部血管超音波検査では無エコー域を認め,壁在血栓の一部が液状化していると考えられた.来院後,脊髄虚血症状は徐々に改善傾向となったが,翌日下血を認め,緊急大腸内視鏡検査にて直腸の虚血性大腸炎と診断された.腹部大動脈瘤内の壁在血栓が腰動脈や内腸骨動脈に飛散し脊髄虚血や虚血性大腸炎を発症したと考えられた.脊髄虚血症状や直腸病変等を厳重に経過観察し改善傾向となったため,2週間後に開腹での人工血管置換術を施行した.術後も脊髄虚血症状や虚血性大腸炎は悪化することなく,速やかに改善し,術後13日目に退院した.一過性脊髄虚血症状から発見された腹部大動脈瘤症例はきわめて稀と考えられ報告する.

  • 北方 悠太, 平間 大介, 羽生 道弥, 腰地 孝昭, 金光 ひでお
    2024 年 53 巻 1 号 p. 43-47
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/02/06
    ジャーナル フリー

    症例は76歳男性.9年前にStanford B型の急性大動脈解離を発症した.保存加療の後,今後の遠位弓部拡大のリスクが高いと判断し,発症4カ月後の慢性早期にエントリーの閉鎖の目的で胸部ステントグラフト内挿術を施行した.ステントグラフトは左鎖骨下動脈直下から胸部下行大動脈にかけて留置した.外来で経過観察としていたが,TEVAR術後1年程度から徐々にステントグラフトの中枢端は遠位側にmigrationし,真腔から偽腔内に脱落した.それに伴って徐々に遠位弓部大動脈瘤の拡大を来し,動脈瘤は71 mm大まで及び,ステントグラフト中枢端は遠位側へ左鎖骨下動脈直下から7 cmのmigrationを来した.外科的治療の適応と判断し,胸骨正中切開にて,オープンステントグラフトを用いて全弓部大動脈置換術を行った.オープンステントグラフトを前回の胸部ステントグラフト内挿術の際に挿入したステントグラフトと接続し,合併症なく術後第15病日に自宅退院となった.

U-40 企画コラム
  • 辻本 貴紀, 本宮 久之, 藤内 康平, 永瀬 崇, 野田 和樹, 北方 悠太
    2024 年 53 巻 1 号 p. 1-U1-1-U5
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/02/06
    ジャーナル フリー

    手術技術は心臓血管外科手術の成績に大きく寄与する因子であり,日常的に手術を想定したトレーニングをすることが重要とされる.心臓血管外科専門医制度においても2018年以降,臨床業務外のトレーニングの中で認定要件を満たすものをOff the Job Training(OffJT)と定義し,専門医取得において30時間以上のOffJTを必須としている.しかしながら,所属施設によってOffJTのクレジットを取得する機会が異なることやOffJTの内容についての定義がなされていないことなどについて見直しが検討されている.今回,OffJTの現状につきU-40幹事を中心にどのようなトレーニングをどのように工夫して行っているかをアンケート法を用いて調査したので,考察を踏まえて報告する.

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