2024 年 53 巻 6 号 p. 343-347
僧帽弁形成術(MVP)後の抗凝固薬としてはワルファリンが一般的に使用されている.ワルファリンの効果は個人差が大きく,時には大量に内服させてもPT-INRの至適な延長が得られない場合がある.本症例ではワルファリン耐性によってワルファリン9 mgとブコローム300 mgを内服させてもPT-INRが目標値まで延長せず,代用薬として直接経口抗凝固薬(DOAC)を内服させた.症例は57歳男性で,易疲労感を自覚するようになり,心雑音を聴取するため医療機関を受診した.経胸壁心エコーでは左室駆出率(LVEF)75%で,僧帽弁前尖の肥厚と後尖の逸脱による重症僧帽弁逆流(MR)を認めた.Barlow症候群とそれに伴う僧帽弁逆流症と診断し,低侵襲僧帽弁形成術(MICS-MVP)を施行した.術後の心エコーではMRは認めず,弁の可動性は良好,有効弁口面積は2.0 cm2,血流通過速度は0.9 m/秒と改善が見られた.術翌日からワルファリン内服を開始したが,PT-INR延長が得られずワルファリン量を徐々に増量した.ワルファリン6 mgを内服してもPT-INRは1未満であり,ブコロームの併用を開始した.ワルファリン9 mgとブコローム300 mgの内服を行ってもPT-INRは1.27であった.ワルファリン耐性と診断し,ワルファリン内服は中止しダビガトラン300 mg分2を内服のうえで退院とした.塞栓症や出血性合併症を認めず,術後3カ月が経過した時点で,ダビガトランの内服を終了した.遺伝子多型によるワルファリン耐性が原因でPT-INRの延長が得られない場合があり,そのような場合は僧帽弁形成術後の抗凝固薬としてDOACが使用できる可能性がある.