抄録
症例は75歳,男性.意識消失発作と労作時の呼吸苦を主訴に他院を受診した.胸部X線検査で右中肺野に異常陰影を認めたため当院へ精査目的で紹介受診した.胸部CT検査で右肺S6に径1.5×2.0cm大の腫瘍陰影を認めたため右肺癌を疑った.しかし,右房内腔にも径6.0cm大の腫瘍陰影を認め主症状の原因はこの右房腫瘍と考えた.超音波検査上右房腫瘍は右房内腔を完全に占拠し,可動性に乏しく,卵円窩からの発生と思われたがValsalva洞や三尖弁への付着は認めなかった.冠動脈造影検査で心房枝より腫瘍を栄養する不整な比較的太い血管を認めた.MRI検査T1強調画像では心筋と等信号の腫瘍で右房壁への浸潤は認めなかった.以上の所見から右房腫瘍は良性腫瘍,とくに粘液腫の可能性が大きいと考えた.安定した循環動態で肺切除術を行うには心臓腫瘍切除を先行することが必要と考え,体外循環下に右房腫瘍切除術を施行した.右房腫瘍は大きさ6.8×5.5×4.5cm大,病理組織学的には粘液腫であった.術前から臥床がちでADLが大幅に低下していたため理学療法を必要としたが,術後26日目に大きな合併症なく退院した.粘液腫切除後3ヵ月で当院呼吸器外科において胸腔鏡下右肺S6切除術+1群リンパ節郭清を施行した.病理学的診断は中分化型扁平上皮癌,Stage IAで,根治度完全切除であった.肺切除後半年経過するが粘液腫,肺癌とも再発,転移を認めない.