抄録
自我体験の知られざる全体像を解明することが, 本研究の目的である。まず自我体験を, 「自己の自明性への違和・懐疑」と仮に定義した。この定義に関わりのあると思われる19の質問項日を選定し, 質問紙調査を大学生345名 (男性102名, 女性243名) に実施した。質問紙では各項目の体率の有無について2件法で回答させると共に, 最も早くから体験した項目と, その体験が最も印象に残っている項目について, 自由記述を求めた。自由記述内容は仮定義に基づいて自我体験と見なしうるか否カか判定され, 140の自我体験事例が抽出された。因子分析の結果と事例の検討を併せることにより, 自我体験の4つの下位側面が識別され, 「自己の根拠への問い」「自己の独一性の自覚」「主我と客我の分離」「独我論的懐疑」と名付けられ, それぞれの特徴が考察された。また, 事例内容の詳細な分析により, 4つの下位側面の問の関係が示唆された。また本研究では, 自我体験の初発時期は児童期にほぼ集中するという結果が得られ, この体験が従来想定されていたような思春期に特有の現象ではないことが明らかになった。