抄録
「年齢の問題」(Vygotsky,2002a)における年齢時期区分論は年齢時期ごとの発達的特徴を個体的な水準に定位し,また文化普遍的な現象として記述するオーソドックスな形式をとっている。これは心的過程の歴史的,文化的,社会的起源と発達の文化的多様性を強調し,個体的な水準ではなく相互行為的な水準での現象の解明をめざす現代的なVygotsky理論の理解とは矛盾するようにも見える。しかしVygotsky(2002a)の理論構成を検討してみると,個体的な水準に位置づく人格と,その外部の社会的環境をそれぞれ異なる内的な構造と展開の論理をもつシステムとして捉え,それらの部分的な接続から人格と社会的環境の双方向的な変化が生じるとする「閉じつつも開かれた」システムを想定していること,人格と社会的環境の普遍的な関係の様式が,文化的多様性を排除するのではなく,それに対する制約として機能しうることが確認できる。Vygotsky(2002a)の年齢時期区分論のこのような枠組みは,個体的な水準と歴史的,文化的,社会的水準の関係や,文化的多様性と普遍性の関係をめぐる現代の理論的探求にも重要な示唆を与えるものである。