本研究は,青年期から成人期の対人関係の発達に関わる変数として友人関係と親密性とを取り上げ,両発達段階間での自己愛と友人関係,自己愛と親密性とのそれぞれの関連性の差異について検討することを目的とした。まず仮説として,自己愛と友人関係の指標としての「友人への信頼」とは両発達段階間で関連性に差異は見られない一方,自己愛と「親密性」とは青年期よりも成人期でより強い負の関連が見られることが想定された。青年期として18歳~25歳の大学生,大学院生の247名,成人期として26歳~35歳の352名に対して,自己愛,「友人への信頼」,「親密性」の尺度を含む質問紙調査を実施した。得られたデータに対し,発達段階ごとに相関分析を行った上で,発達段階間での相関係数の差の検定を実施した。その結果,全6側面の自己愛と「友人への信頼」との関連については発達段階間で有意差は見られない一方,「親密性」とは自己愛の中でも「注目・賞賛欲求」,「自己愛的憤怒」,「自己愛性抑うつ」,「共感性の欠如」の4側面が成人期において有意に強い負の関連を持つという発達段階間での関連性の差異が示された。この結果から,自己愛は成人期になるにつれて対人関係の発達全般に関わるようになるのではなく,特に相互性に基づく親密性の形成に対して負の関わりを持つようになるということが示唆された。