本論文では,実行機能の発達の脳内機構に関する最新の研究をレビューする。実行機能は,思考,行動,感情を制御する能力である。近年,実行機能のホットな側面とクールな側面に関する理論的枠組みが提案されている。この枠組みによると,ホットな実行機能は情動的な状況で惹起されるプロセスであり,満足の遅延などを含む。一方,クールな実行機能は情動的に中立な状況で必要とされるものであり,認知的切り替えなどを含む。本論文では,まず,両側面に関する行動的発達について概観する。クールな側面は幼児期から青年期にかけて基本的に順調に発達するのに対して,ホットな実行機能は青年期において一時低下する。次に,ホットな側面とクールな側面の脳内機構に関する成人の研究を紹介する。具体的には,ホットな実行機能には外側前頭前野や報酬系回路がかかわり,クールな実行機能には外側前頭前野と後部頭頂葉がかかわる。最後に,子どもと青年を対象にした実行機能の発達の脳内機構とその障害に関する研究を紹介する。