抄録
本研究は監督者の先有傾向と役割行動とが, 監督者のリーダーシップ機能に関する成員の認知 (P得点, M得点) に及ぼす効果を実験的に検討し, さらにそれらが成員の作業に対する動機づけ, 集団への誘引度, 集団の生産性に及ぼす効果をもあわせて検討しようとした。中学生1年生の5人集団30個 (計150名) を被験者とし, これに同学年の生徒1人を監督者 (事前に選定し訓練を施した) としてつけ, 色画用紙から単純な図形を切り抜く作業を課題として与え, 5分間を1試行として練習試行の後8試行行なわせた。監督者の先有傾向 ((P) 的と (M) 的) 及び役割行動 (P型, M型, O型) を独立変数として操作し, (P) P, (P) M, (P) O, (M) P, (M) M, (M) Oの6種の実験条件を作った〔 () 内は先有傾向を示す〕。練習試行後 (測定時I), 第4試行後 (測定時II), および第8試行後 (測定時III・IV) に質問紙法で成員の動機づけ, 集団への誘引度, リーダーシップ・タイプの認知を測定し, さらに各試行ごとの生産量と監督者の行動を記録した。
主な発見は次の如くであった。
1) 少なくともP・M得点を測度としてみる限り, P的先有傾向はP型役割行動を介さずしではP機能として認知され難いのに対し, M的先有傾向は役割行動を介さずして容易にM機能として認知される傾向がある。
2) 作業に対する動機づけには各条件間に有意差は見られず, 集団への誘引度においては実験の初期から一貫して (M) O条件が (P) O条件より有意に高い水準を示した。しかし, これらの変数にうかがえる傾向は, 1) の原理でよく説明され得るようなものであった。
3) 成員によるリーダーシップ・タイプ認知と生産性との間にはおおむね従来の諸研究と一致した関係が見られたが, 認知によるPM型 (役割行動の型としては存在しない) の生産量がP型 (役割行動として存在する) に比して全般的にやや少かった。また操作条件別に見ると, (P) M条件と (M) M条件はともにM型と認知されていたにもかかわらず生産量の推移には大きな差異が見られた。これらの事実は, 監督者の客観的役割行動と先有傾向が成員の認知 (P・M得点) に反映されないまま「前意識ないし半意識的過程を経由して成員 (の生産) 行動に影響を及ぼす力」の可能的存在を示唆しているものと解された。