実験社会心理学研究
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管理者による職場管理目標の設定過程とリーダーシップ行動
古川 久敬
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1979 年 19 巻 1 号 p. 15-24

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抄録
従来の研究は, リーダーの行動が, 集団状況 (部下のパフォーマンス水準, 作業課題の特性) に対応して柔軟に変化すると述べているものの, それが何故であるかを明らかにしていない。本研究は, 下記の2つの仮説をたて, 集団状況の違いが, リーダーシップ行動の違いをもたらすメカニズムについて期待理論の観点から検討を加えたものである。被験者は, 鉄道輸送にかかわる職場に勤務する1, 576名の第一線管理者であった。
仮説1 管理者は, 自己の職場集団をとりまく諸々の状況を考慮しながら, 自己の職場にふさわしい独自の職場管理目標を設定するであろう。管理者は, “部下職員との関係のよさ”, “労働組合との関係のよさ”, “管理者自身の意欲”, “直属上司との関係”, そして “経営施策への信頼”などの職場状況要因を考慮しながら, 自己の職場管理目標を設定していることを分析結果は裏づけていた。さらに, 管理者にとっての職場状況の有利性という観点からみれば, 管理目標の設定において明確な階層性があることも見い出された。
仮説2 管理者のリーダーシップ行動は, 彼がいかなる職場管理目標を掲げているかによって差異が認められるであろう。なぜなら, 期待理論が示唆するごとく, 管理者は, 自己の職場管理目標の実現に役立つと思うリーダーシップ行動をより多く行使するからである。結果は, この仮説を支持していた。すなわち, 課題志向的な管理目標を掲げる管理者は, リーダーシップ行動のうち課題達成機能を, 逆に集団志向的な管理目標を掲げる管理者は集団維持機能を, それぞれより多く行使していた。また, 管理者が自己の職場管理目標の実現にとってリーダーシップ行動が貢献すると信じている程度 (道具性認知) と, 彼の現実のリーダーシップ行動とは高い相関を示した。
本研究の結果をもとに, 集団状況とリーダーの行動との間に, リーダーによる目標設定過程を仮説する必要のあることを説き, リーダーシップ過程に関するひとつのモデルを提示した。
最後に, このモデルに依拠して, リーダーシップ行動の多様性を説く従来の研究結果を説明, 解釈し, さらに, Fiedler (1967) の提唱するリーダーシップの有効性に関する条件即応モデル (contingency model) の解釈を試みた。
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© 日本グループ・ダイナミックス学会
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