2020 年 62 巻 1 号 p. 17-27
空間線量率は,福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質の地理的な沈着分布を把握する重要な指標であるものの,環境中の放射性物質動態の初期段階にあたる2011年において,森林の空間線量率の分布や経時変化を解析した研究は少ない。福島県郡山市に位置し,苗木の生産を目的に造成された採種園・採穂園,スギ林分,アカマツ・落葉広葉樹林分のパッチが存在する森林内に定点を設け,2011年6月から2011年11月にかけて高さ0.1 m,1.0 mの空間線量率の測定を行い,空間線量率に対する地形と森林植生の関係及び経時変化を統計的に解析した。2011年6月において,空間線量率は植生と関連し,森林植生間における空間線量率の大小関係は採種園・採穂園,アカマツ・落葉広葉樹林分,スギ林分の順であった。このことから,林冠による放射性物質の捕捉が高さ0.1 m,1.0 mで測定された空間線量率に関与していた可能性が示唆された。また,2011年における空間線量率の減少傾向は,森林植生ごとに異なった。採種園・採穂園は物理的減衰よりも早く低下した。一方,高木が優占するスギ林分やアカマツ・落葉広葉樹林分では,物理的減衰よりもやや早い,または物理的減衰と同程度の経時変化が観察された。これらの結果から,空間線量率の経時変化はフォールアウト時に沈着した放射性物質の林冠による捕捉とその後の林冠から林床への移行や土壌の下方浸透に関連している可能性が示唆された。