森林立地
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論文
スギ人工林皆伐跡地の微生物呼吸速度の6年間の変化
阿部 有希子 橋本 昌司黒河内 寛之寺本 宗正菅原 泉梁 乃申丹下 健
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2020 年 62 巻 1 号 p. 29-37

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抄録

森林土壌に貯留されている有機物の温暖化に伴う動態に関する知見を得るために,新たなリター供給・植生の進入を停止させる処理を行い,土壌呼吸速度を定期的に測定した。東京農業大学奥多摩演習林内の35年生スギ人工林を調査地として,2012年12月に皆伐区と立木区(対照)を設定し,2013年3月に皆伐区の立木を伐採し,地拵えを行った。皆伐区では,苗木の植栽を行わなかった。調査地には,火山灰を母材とする黒色土と褐色森林土が分布している。皆伐区に19カ所,立木区に21カ所の測点をそれぞれ設置し,2013年3月から2018年12月にかけて土壌呼吸速度を測定した。皆伐区の測点では,新たなリターの供給や植生の進入を排除した。年ごとに土壌呼吸速度と地温との回帰式を用いて地温20℃の時の土壌呼吸速度を求めた。立木区では,2013年と比較していずれの年も有意な違いはなかった。皆伐区では,2013年と比較して2015年と2016年が有意に高く,2018年が有意に低かった。立木区に対する皆伐区の土壌呼吸速度の割合は,皆伐後1年目(2013年)が0.60であり,皆伐後4年目(2016年)に0.74と最も高くなった後に低下し,皆伐後6年目(2018年)には0.49になった。2018年に調べた深さ0~5 cmの表層土壌の炭素含有量は,皆伐区が24.6 t ha-1,立木区が23.2 t ha-1で有意差がなかった。皆伐区における6年間の炭素放出量は,50.3 tC ha-1と推定され,皆伐前に表層土壌に貯留されていた有機物の分解では説明できなかった。本研究の結果は,土壌有機物の分解を考える上で次表層以深の有機物の存在を考慮することの重要性を裏付けるものである。

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© 2020 森林立地学会
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