2021 年 103 巻 3 号 p. 237-241
ナラ枯れの媒介昆虫であるカシノナガキクイムシ(カシナガ)は,28SリボソームDNAの部分塩基配列の系統的関係から,グループAとグループBに大きく分けられ,各グループ内には複数の配列タイプが存在する。先行研究で未解析であったナラ枯れ被害地と,近年新たに確認されたナラ枯れ被害地のうち,島嶼部と四国のカシナガについて配列タイプを解析した結果,八丈島,小豆島および徳島県の個体群はグループBのタイプ4c-eであるのに対し,御蔵島,三宅島,対馬および高知県内陸部の個体群はグループAのタイプ1a-dであった。今回解析した調査地からは南西諸島に分布する配列タイプや塩基配列の大きく異なる新しい配列タイプは検出されず,全体的には先行研究で認められたタイプごとの分布傾向に沿うものであった。ナラ枯れは拡大し続けており,被害のモニタリングとともにカシナガの配列タイプ解析の継続が,被害対策のための基礎情報として重要である。