日本森林学会誌
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103 巻, 3 号
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論文
  • ―天然生ヒノキ林の天然更新に向けた地床処理方法の検討―
    齋藤 智之, 酒井 武, 壁谷 大介, 杉田 久志, 九島 宏道, 星野 大介, 楯 直顕, 早川 幸治, 久保 喬之, 今村 正之, 黒田 ...
    2021 年103 巻3 号 p. 179-185
    発行日: 2021/06/01
    公開日: 2021/08/12
    ジャーナル オープンアクセス

    ササ型林床の森林では,ササの繁茂が樹木の更新阻害要因となり,確実な更新のためにはササ抑制などの更新補助作業が不可欠である。閉鎖林冠下でササを抑制し,前生稚樹を確実に育成してから伐採すれば更新の成功が期待できると考えられる。しかし,伐採前に林冠下でのササ抑制を実施した事例は知る限りにおいてない。そこで,本研究では天然生ヒノキ林の閉鎖林冠下でチマキザサを抑制する野外操作実験を行って,その後伐採しても抑制効果が持続されるササ抑制法について検討した。ササ抑制の方法として,刈払いと抑制剤散布,これらを組合わせた5処理を行った。年一回各処理1 m2のササ地上部・地下部を採取し,現存量,稈数,地下部の貯蔵炭水化物濃度を測定した。刈払いを含む3処理では,チマキザサは最初の刈払いでほぼ再生能力を失い,その後数年で地下部が消耗して現存量が0となった。一方,抑制剤は徐々に地上部現存量を減らしたが,4年後には回復に転じ,地下部は一切抑制効果が表れず,ササを枯殺する効果はなかった。以上のことから林冠下で刈払いを行うことはササ制御に最適な方法と考えられ,前更作業によるヒノキ天然更新施業の可能性が示唆される。

  • 江崎 功二郎, 川口 エリ子, 中村 克典, 前原 紀敏, 相川 拓也, 小澤 壮太, 米森 正悟
    2021 年103 巻3 号 p. 186-191
    発行日: 2021/06/01
    公開日: 2021/08/12
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    マツノマダラカミキリを駆除するための伐倒駆除では,上面被覆式が広く普及している一方で,全面被覆式を採用している地域もある。本研究では,被覆方式の違いによるくん蒸処理の効果を評価するために,土壌条件が異なる4試験地を設置し,被覆内のMITC濃度を測定するとともに,割材調査によって本種幼虫の死亡率を調査した。その結果,くん蒸剤投入後のMITC濃度の時間変化は試験地や被覆方式の違いに関係なく,投入2時間後または1日後にピークに達し,15日後にかけて徐々に減少した。また,本種幼虫の死亡率は,試験地や被覆方式に因らず高い水準を示した。ごく少数ながら材内で生存した幼虫は,坑道に木くずが詰められた蛹室内で発見され,それらの蛹室は相対的に他のものに比べて深い位置に作られていた。これらの結果から,全面および上面被覆式のどちらも十分な駆除効果があることが確認された。

  • 小川 秀樹, 櫻井 哲史, 手代木 徳弘, 吉田 博久
    2021 年103 巻3 号 p. 192-199
    発行日: 2021/06/01
    公開日: 2021/08/12
    ジャーナル オープンアクセス

    コシアブラは人気の高い山菜の一つであるが,山菜類の中でも137Cs濃度が高いことが知られている。しかしながら,葉,幹,主根,側根といった樹体部位別ごとの137Cs分布を捉えた研究はこれまでほとんど報告されてこなかった。本研究は,部位別の137Cs分布や重量比に着目し,統計解析により,コシアブラの葉の高濃度化の要因について検討することを目的とした。2016年と2017年の春期と秋期に,福島県内に自生する小さい個体(樹高が2 m以下)のコシアブラを採取した。各部位への137Cs分布割合を,各部位の137Cs濃度と重量から算出した。春期には樹体全体に含まれる137Cs蓄積量の約50%が葉に分布した。また,いずれの採取時期においても幹より地下部に多くの137Csが分布していた。さらに,線形回帰モデルの結果,側根と幹および主根の内皮の137Cs濃度には高い正の相関が認められた。これらの結果から,137Csは内皮を通じて主根や幹へと移動した可能性が示唆された。コシアブラの葉が高濃度化する要因については,既往研究で指摘されてきた浅根性という特徴に加えて,地下部に蓄えられた137Csの内皮を通じた転流による可能性が考えられる。

  • 宇都木 玄, 久保山 裕史
    2021 年103 巻3 号 p. 200-206
    発行日: 2021/06/01
    公開日: 2021/08/12
    ジャーナル オープンアクセス

    日本の人工林の持続的な有効活用指針を示すことは,国土計画や山村振興を図るために重要である。そこで林業を行う人工林の価値を,投資経営対象指標として用いる土地期望価(LEV)により分析した。支出キャッシュフローは単位材積量当たりの素材生産費と運搬・流通費からなる生産コスト(PC),および単位土地面積当たりの造林・初期保育コスト(SC)とし,収入キャッシュフローは単位土地面積当たりの年間平均成長量(MAI)に立木価格と輪伐期を乗じた値として計算した。スギ人工林の平均MAIを10 m3/ha・年とし,現状のPC(7,000円/m3)とSC(150万円/ha)を仮定すると,1%の割引率で投資経営対象とならなかった。現状のコストを想定して投資経営対象となるには,MAIが17 m3/ha・年以上,輪伐期は91年以上となり,さらにPCSCを約10%低コスト化できれば,40年程度の輪伐期で投資経営対象となった。これらのことからMAIを基準として人工林のゾーニングを行い,生産コストと造林・初期保育コストから輪伐期を設定したうえで経営判断を行うことが重要である。

  • 杉田 久志, 九島 宏道, 三村 晴彦, 楯 直顕, 今村 正之, 早川 幸治, 森澤 猛, 酒井 武, 齋藤 智之, 西村 尚之, 星野 ...
    2021 年103 巻3 号 p. 207-214
    発行日: 2021/06/01
    公開日: 2021/08/12
    ジャーナル オープンアクセス
    J-STAGE Data

    林床にササを欠くヒノキ林で抜き伐りによる天然更新試験が行われた長野県木曽地方の赤沢施業実験林において約30年後の更新成績を評価し,諸要因との関係を解析した。林床の光環境は1984~1986年の上木抜き伐りと下層植生除去により改善されたが,その後に悪化した。伐採約30年後のヒノキ更新木密度は実生(樹高0.5 m以下),稚樹(0.5~1.3 m),幼樹(1.3 m以上)あわせて約60 万本/haに及んだが,更新状況はばらつきが大きく,幼樹密度が3,000 本/ha以上のコドラートの相対頻度は38%であり,幼樹バンクがすでに成立している箇所と当面は成立困難とみられる箇所が混在していた。伐採3~5年後の初期実生密度は30年後の幼樹密度と有意な相関がなく,むしろ約15年後の実生密度が有意な相関を示した。更新成績は光条件や地形条件と有意な関係を示し,とくに伐採15年後の光条件との関係が明瞭で,伐採後の良好な光環境が一定期間継続することが更新成功をもたらすことが示唆される。以上のことから,初期実生密度による更新成績の予測は困難であったが,光条件や地形条件から予測することが可能と考えられる。

  • 林 真智, 田殿 武雄, 落合 治, 濱本 昂, 平山 颯太, 齋藤 英樹, 髙橋 正義, 鷹尾 元, 山野邉 隆, 松浦 和司, 福田 研 ...
    2021 年103 巻3 号 p. 215-223
    発行日: 2021/06/01
    公開日: 2021/08/12
    ジャーナル オープンアクセス

    地方自治体で普及のすすむ森林クラウドで効果的に伐採地情報を活用できるよう,ALOS-2/PALSAR-2データを用いた伐採検知技術を開発,検証した。茨城県を対象とし,セグメンテーションにより小領域に分割し,2時期の画像間で後方散乱係数が低下した箇所を抽出する方法を採用した。現地調査や光学衛星画像との比較により,精度検証や手法改良を行った。その結果,PALSAR-2の画像歪みが生じる山間地においても,マイクロ波の局所入射角に応じたスクリーニングにより誤検知を減らせることや,マイクロ波照射方向の異なる画像の併用により未検知を減らせることが示された。検知精度は,山間地であってもユーザ精度82%,プロデューサ精度76%と十分な値が得られた。次に,茨城県の森林クラウドに伐採検知情報を載せ,四つの自治体に試用および現場確認してもらう実証試験を行った。ユーザ精度は83%で,特に山奥の伐採地の把握に有効であることが示され,また,30%の伐採地は無届けであることも確認された。このように,森林クラウドを通じて伐採地を効率的に監視するうえでのPALSAR-2データの有効性が示された。

  • ―川名緑地での15年間の実施記録の分析から―
    早川 尚吾, 杉浦 克明
    2021 年103 巻3 号 p. 224-231
    発行日: 2021/06/01
    公開日: 2021/08/12
    ジャーナル オープンアクセス

    神奈川県藤沢市の南部に位置する川名緑地の保全を目的に活動を展開しているボランティア団体に「川名里山レンジャー隊」があり,学生が中心となって森林環境教育を実施している。この教育活動は「谷戸探検」と呼ばれ,児童を対象に自然を身体で感じてもらう教育活動である。本研究の目的は,このレンジャー隊が行ってきた谷戸探検の15年間分の実施記録から,谷戸探検の活動内容の変遷とともに教育活動に対する学生指導者の視点の変化を分析し,学生が主体となって実施される森林環境教育活動上での学生視点の留意点について,主に安全面や事前確認の観点から考察することである。そこで,指導者の学生によって記録された実施記録のテキストマイニングによる解析を行った。その結果,学生が主体となって行う森林環境教育活動での留意している点として,参加者の怪我,プログラムの時間管理,参加者の健康管理,参加者に合わせた移動速度を中心に捉えていることが考えられた。その一方,学生主体であると,メンバーの入れ替えが毎年行われるため,学生視点の安全面や健康管理に関する留意点が引き継がれない可能性もあることに注意を払わなければならない。

短報
  • 渡邉 仁志, 茂木 靖和, 三村 晴彦, 千村 知博
    2021 年103 巻3 号 p. 232-236
    発行日: 2021/06/01
    公開日: 2021/08/12
    ジャーナル オープンアクセス

    コンテナ苗が下刈り年数の短縮に寄与するかどうかを検討するため,実生ヒノキのコンテナ苗と裸苗について植栽後4年間のサイズ,成長量,および雑草木との競争関係を比較した。コンテナ苗が樹高および根元直径の相対成長率で裸苗を上回ったのは,植栽1年目に限られていたが,成長量はその後も持続して裸苗と同等以上であった。連続した4年間の下刈りの結果,植栽5年目の夏期には,調査区の雑草木は平均植生高が150 cm程度のススキや落葉低木になっていた。このとき,コンテナ苗の樹高は284 cmで,裸苗より約40 cm高かった。この結果には,通常よりも肥効期間の長い緩効性肥料をコンテナ苗の元肥として用いたことが影響したと考えられる。本研究のコンテナ苗は裸苗よりも1年間早く雑草木との垂直方向の競合状態が緩和されたことにより,下刈り年数が短縮できた可能性がある。

  • 濱口 京子, 後藤 秀章, 佐藤 重穂, 神崎 菜摘
    2021 年103 巻3 号 p. 237-241
    発行日: 2021/06/01
    公開日: 2021/08/12
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    ナラ枯れの媒介昆虫であるカシノナガキクイムシ(カシナガ)は,28SリボソームDNAの部分塩基配列の系統的関係から,グループAとグループBに大きく分けられ,各グループ内には複数の配列タイプが存在する。先行研究で未解析であったナラ枯れ被害地と,近年新たに確認されたナラ枯れ被害地のうち,島嶼部と四国のカシナガについて配列タイプを解析した結果,八丈島,小豆島および徳島県の個体群はグループBのタイプ4c-eであるのに対し,御蔵島,三宅島,対馬および高知県内陸部の個体群はグループAのタイプ1a-dであった。今回解析した調査地からは南西諸島に分布する配列タイプや塩基配列の大きく異なる新しい配列タイプは検出されず,全体的には先行研究で認められたタイプごとの分布傾向に沿うものであった。ナラ枯れは拡大し続けており,被害のモニタリングとともにカシナガの配列タイプ解析の継続が,被害対策のための基礎情報として重要である。

  • 佐藤 弘和, 佐藤 孝弘, 福地 稔
    2021 年103 巻3 号 p. 242-247
    発行日: 2021/06/01
    公開日: 2021/08/12
    ジャーナル オープンアクセス

    遊休農地の活用策の一つとして植樹が挙げられるが,当該地では表層に硬盤が形成されていることがあり,植栽木の生残・成長に悪影響を及ぼすことがある。本研究では,エゾヤマザクラ植栽木の主軸の枯死・萌芽と土壌貫入抵抗の関係について調査した。畑地として利用されていた遊休農地内において,耕耘を行った区画と耕耘をしなかった区画を調査対象とした。耕耘処理区の深さ0.1 mまでのNc値は無処理区(対照)の値より低い値であり,耕耘処理で硬盤が破壊されたことが示唆された。調査木の主軸の枯死は,耕耘処理の方が無処理区よりも少なかった。主軸枯れした調査木では萌芽が生じる傾向にあり,萌芽枝の成長量は0.1 mまでのNc値が低いほど高い値を示す傾向であった。したがって,遊休農地において植栽を行う際には,表土層での耕耘処理を行うことが有効である。

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